これからの社会に貢献できるクリエイターを育てるには?
専門学校講師が考える、教育のデザイン

福岡を拠点とするクリエイティブプロダクション「株式会社ファイブ(5ive Inc.)」の創業者で、福岡デザイン専門学校の講師も務める下村晋一さん。

ARCHETYP代表の齋藤順一とは、数々のプロジェクトを一緒に手掛けてきた戦友であり、プライベートでも親交のある旧知の仲です。

東京と福岡という土地も人柄も異なる場所で活動しながら、クリエイティブやビジネスについて「考えていることが似ていて驚く(齋藤談)」という二人。専門学校の講師を務めているという点も共通しています。

今、社会でクリエイティブに求められる領域が広がりつつある中、クリエイターがもっと輝ける未来をつくるにはどうしたらいいのか?

クリエイティブ業界の第一線で活躍し続け、未来のクリエイターを育成する現場にいる下村さんの考えを聞いてみたい!

そこで齋藤は福岡へと飛び立ち、下村さんに会ってきました。

ビジネスの話から教育、採用の話まで、現役クリエイターはもちろん、クリエイターの育成に悩んでいる方、これからクリエイティブに力を入れていきたい企業の方も必見の対談です!

※このインタビューは2019年に実施しました。

下村 晋一さん(写真左)

株式会社ファイブ(5ive inc.)CEO、福岡デザイン専門学校講師
テクニカルディレクター/エンジニア

印刷会社と広告デザイン会社に勤務後、5ive名義で独立。福岡市平尾にあるリトラシェアオフィスを共同運営。同オフィスメンバーを軸に、課題解決を最優先しブランディングや商品開発などのクリエイティブ全般に携わる。2015年より福岡デザイン専門学校講師を務める。



デザインできることが“特殊能力”の時代は終わった!?

まずは乾杯しましょうか(笑)

齋藤

そうですね(笑)

下村さん

一同:乾杯!

ARCHETYPでクリエイターと企業をつなげる人材マッチングサービスを新しく立ち上げたのですが、その背景にはクリエイティブの力で日本のビジネスをもっとよくしていきたいという想い、そしてクリエイターがもっと正しく評価されて活躍できる場を増やしたいという想いがあります。

齋藤

いいですねぇ。

下村さん

今、世の中全体の動きとして自動化やSaaS化の流れが急速に進んでいますよね。そして、様々な業種でデザインをはじめとするクリエイティブな仕事の価値が徐々に上がってきている。それは何故かというと、あらゆる仕事が自動化されていく中で人間がやるクリエイティブな仕事の価値が際立ってきているからだと思うんです。

齋藤

確かにそうですよね。

下村さん

インターネットが基本的なインフラとして機能するように整備され、5Gの時代も近づいてきています。このようにテクノロジーがどんどん進歩していく中、クリエイターたちもAIやRPAなどの技術をもっと使いこなせるようにならないといけないですよね。

齋藤

そこはクリエイターの教育に携わる身としても気にかけている点です。たとえば最近では美術大学でもテクノロジー・ITとデザイン・アートの融合をテーマに掲げているところがありますが、具体的に何を教えているのかはすごく興味があります。

下村さん

同時に、クリエイティブに関しても何かをつくって終わりではなく、クライアントの課題解決にどれだけ貢献できるか、クライアントのビジネスにどれだけ寄り添ってグロースさせられるかという部分が強く求められるようになってきています。

齋藤

そうですよね。僕も生徒に「絵をつくれることが特殊能力だと思ってはダメだ」とよく教えています。僕らの仕事は問題解決をすることであり、なんのためにデザインするのか目的を定義して、結果につなげることを意識してほしいと。

下村さん

単純にデザインスキルだけを磨けばいいのではなく、クライアントを課題解決に導くためのビジネススキル、コミュニケーションスキル、そして新しい技術やテクノロジーに対応する力も求められる時代ですよね。

齋藤

専門学校に入学してくる生徒はデザイナーにならなければいけないという固定概念が強い子が多いのですが、課題解決という意味ではディレクターだってクリエイティブな仕事です。

そこは僕ら教える立場の人間が導いてあげて、デザイナー以外の職種でも業界から求められるし、肩書など関係なく課題解決の方法を学べる機会をもっと増やしていく必要があると思っています。

下村さん




クリエイターが社会でもっと輝ける仕組みをつくりたい

そもそも、今の子たちは純粋な制作会社に憧れてこの業界に入ってくるのでしょうか? 体感としては、そういう時代でもなくなってきている気がします。

齋藤

「あの会社のあのクリエイティブに感動してデザイナーを目指しました!」みたいな子は少なくなってきていると思います。

下村さん

それこそ僕らが若手の時代は、イノベーションを巻き起こすような制作会社がいくつもあって、第一線で活躍するスタークリエイターに憧れてデザイナーを志した人もたくさんいたと思います。僕も心が震えるようなWebサイトに出会って、「おれもこんなの作れるようになるぞ!」という気持ちが原動力になっていました。

齋藤

東京にはすごい制作会社がたくさんあるぞ!と僕もめちゃくちゃ刺激を受けていたのを覚えています。当時の制作会社は今どうなっているんですか?

下村さん

もちろん元気なプロダクションもありますが、ここ数年で制作会社が事業会社と組んだり、少数精鋭プロダクションが縮小・解散していたりもしますね。

齋藤

その中で齋藤さんは15年近く会社をやっていると思いますが、制作会社が続かない理由のひとつに、クリエイターが社長をやることの難しさもありますよね。昔、ある制作会社の社長が「自分の会社の売上高は年に1回しか見ない」と言っていて、リスクの高い経営をされているなと驚きました(笑)。

下村さん

それで上手くいくなら逆にすごいですけど(笑)。でも、僕らが憧れていたクリエイティブな会社が買収・縮小・解体されていく姿を見て、急に寂しくなったんです。もはやクリエイティブでは儲からない時代なのか?と。

一方で、すごいクリエイターがいて、ビジネススモデルが秀逸で、社会的地位も高い、Appleという成功例もあります。そう考えると、諦めるのはまだ早いですよね。Appleのようにビジネススキームとサービスを確立すれば、クリエイターが好きな仕事で稼げて、社会にも貢献できる仕組みができるのではないかと考えました。

齋藤

そうして生まれたのが、人材マッチングサービスだったんですね?

下村さん

そうです。僕はクリエイターのことが好きだし、その人たちから生まれるクリエイティブも大好きです。だから、クリエイターがもっとハッピーになって、企業にとっても価値のあるインフラってなんだろうと考えて、人材サービスにたどり着きました。

齋藤




企業と学校の連携が、クリエイティブ業界底上げのカギに

下村さんはクリエイターを育てる立場として、今後どんなことに力を入れていきたいとお考えですか?

齋藤

大きな目標としては、クリエイティブ業界の底上げに少しでも貢献したいと思っています。そのためには、どうしたらクリエイターがもっと稼げて世の中に認められるのかを追求する必要があります。それこそ、これからはビジネスマナーも身につけなければならないですし、僕よりも詳しい大学の先生の知見なども採り入れながら、クリエイターのより良い姿を民主化していきたいです。

下村さん

先ほどおっしゃっていたように、課題解決が我々の仕事であるならば、クライアントとの向き合い方や寄り添い方も大切になります。そういったことをどう教えていくのかは、教育現場の課題ですよね。

齋藤

本来、クリエイターはただの労働者ではないと僕は思うんです。手を動かして作ったものに価値があるのではなく、相手が困っていることをクリエイティブの力で解決して真の価値提供ができる。弁護士も法律の知識を持っていることが価値になるのではなく、お客さんの困りごとを法律のプロフェッショナルとして解決するから価値がありますよね。それと同じだと思います。

下村さん

クリエイターが課題解決のプロフェッショナルであると世の中に認められるようになれば、クリエイティブ業界の可能性はもっと広がりますよね。

齋藤

そのためには、学校が課題解決の“倉庫”になる必要があると思います。そこで学んできたクリエイターは絶対に面白いと思うし、業界の底上げにもつながります。そういう学校を東京だけじゃなく全国につくりたいですね。

下村さん

それはぜひ一緒にやりたいです! 業界の底上げという視点は本当に大切だと僕も思っていて、もはや一社だけ儲かればいい時代ではないですよね。みんなで力を合わせて業界全体を盛り上げていかないと、巡り巡って困るのは自分たちですから。

齋藤

企業が10社ぐらい集まって学校をつくるのも面白いと思っています。そこの卒業生を雇うという協定のもと、持ち回りで講師をやってクリエイターを育てていく。学校と企業がそのくらい密になると、教育の質がガラッと変わる気がします。

下村さん




企業と人材のミスマッチを防ぐには?

今の話を伺っていて、企業と教育機関がガッツリ連携するようになれば、企業とクリエイターのミスマッチも減らすことができるかもしれないと思いました。企業がクリエイターを雇って半年なり1年なり育てたのに辞めてしまうとか、逆にクリエイター側も実際に入社してみたらやりたいことと違っていたとか、不幸な話がいっぱいあると思うんです(笑)。

齋藤

僕もその失敗は散々やってきました(笑)。確かに、学校という形でお互いのことを1〜2年間じっくり見られる環境があれば、入社後のミスマッチは減らしていけそうですよね。

下村さん

会社の採用活動をしていて思うのは、デザインスキルも社会性も人間性も本当に人それぞれで違うということ。その人がうちの会社に合っているのかを短期間で判断するのってけっこう難しいんですよね。そこが学校を通して深く理解できるようになれば、会社の中でその人が活躍できる場をより具体的にイメージできると思います。逆に企業も授業等を通して現場のありのままの姿を見せることで、クリエイター側もどんな会社なのかをイメージできるようになります。

齋藤

人材が多種多様なのだから、採用のあり方にも多様性があっていいと思います。たとえば、デザインスキルは高いけどコミュニケーションが苦手な人と、その人の翻訳者になれる人材をセットで採用できるとか。人材の組み合わせですごいパワーが発揮できるなら、単独でなんでもできるスーパーマンを探すよりも効率的な気がしますね。

下村さん

コミュニケーターという職業が出てきそうですね(笑)。でも実際、プロジェクトで起きるさまざまな問題を深掘りしていくと、「コミュニケーション不足」や「コミュニケーションの齟齬」という落としどころになることが多いです。そこを円滑に進めてくれる人材はめちゃくちゃ重宝されますよね。

齋藤

理想の人材ですよ。クライアントとクリエイターのあいだに立って、課題解決に導いてくれる人。応用力や勘と同じで、教えるのがすごく難しい部分ですけれど。

下村さん

コミュニケーションとひと口で言っても、具体的に何なのかを噛み砕いて教えてもらう機会ってなかなかありませんよね。個人的にはそこを今後、見える化して、教育にも採り入れていきたいと思っています。

齋藤

ぜひ、一緒に体系化して世の中に広めていきましょう!

下村さん

では、まずは一緒に学校をつくるということで(笑)。今後ともよろしくお願いいたします! 本日はありがとうございました!

齋藤

(了)

松山 響
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