一つのサービスへの「尋常じゃないこだわり」が インハウスのクリエイティブをおもしろくする

様々なキャリアデザインを実現しているクリエイターの皆さんに話を聞きながら、クリエイターの新しいキャリアデザインのあり方を考える「クリエイターインタビュー」。

今回お話を伺ったのは、日本一の競馬ポータルサイト「netkeiba.com」や「週刊ベースボールONLINE」等の運営を行う株式会社ネットドリーマーズで、クリエイティブグループ長を務める入山まゆみさん。

クリエイターがインハウスで働くことの魅力や大変さをいろいろと聞いてみました。事業会社や一般企業への就職・転職を検討しているクリエイターの皆さんの参考になれば幸いです。

入山 まゆみさん

株式会社ネットドリーマーズ
クリエイティブグループ グループ長

Webデザイナーの姉の影響でデザイナーへ転身。2005年、株式会社ネットドリーマーズに入社。「netkeiba.com」を中心にデザインを担当。2016年よりクリエイティブチームのマネージャーとして全サービスのクオリティ管理も担当。2017年、クリエイティブグループとして独立した組織体制となりグループ長を務める。

30代でWebデザイナーに転身。未経験アルバイトからスタートし、今ではグループ長に

―「netkeiba.com」は、月間ユーザー約1,000万人、PV数は10億を超える競馬総合サイトだとお聞きしています。それこそ競馬ファンなら知らない人はいないほど影響力のある業界最大手のサービスですよね。そのクリエイティブと日々向き合い続けているクリエイターの方々がどんなことを考えているのか、どのように働いているのか、本日はいろいろとお伺いできればと思います。

よろしくお願いいたします。

入山さん

―まず、入山さんの現在の仕事内容を教えていただけますか?

デザインやコーディングなどの制作に関するチームのグループ長をやらせてもらっています。「netkeiba.com」が主軸ですが、他のサービスも含めたクリエイティブも見ています。

入山さん

―グループ長というと、クリエイティブをジャッジしたりメンバーをマネジメントしたりといった役割でしょうか?

そうですね。ただ、もともとデザイナーなのでプレイングマネージャーという感じで、経営にも携わるし、マネージメントもするし、デザインもやります。

入山さん

―経営にも携わられているのですね?

弊社は各グループ長が経営方針にもコミットするので、たとえば経営会議などに参加しています。

入山さん

―ありがとうございます。入山さんのご経歴についてもお聞かせください。最初は制作会社などに勤めていたのでしょうか?

もともと音楽で生活したくて30歳過ぎまでフリーターでした。それで、そろそろちゃんと働こうと思った時、一番興味があったのがデザインだったんです。幸いなことに姉がWebデザイナーだったので、姉に教えてもらいながら見よう見まねでデザイナーになりました(笑)。

入山さん

―デザイン学校などには行かなかったのですか?

はい、独学です。2〜3ヶ月、一生懸命勉強しました。それから、いよいよデザイナーとして働こうと思ったのですが、30歳で未経験の人を雇ってくれる会社が全然なかったんです。ことごとくいろんな会社に落ちて、唯一拾ってくれたのがネットドリーマーズでした。

入山さん

―そうだったんですね。最初から正社員ですか?

はじめはアルバイトという形でスタートしました。これは弊社の企業文化の一つだと思うのですが、正社員/アルバイト、経験者/未経験者の垣根があまりなく、「やってみる?」という感じでいろいろなデザインに挑戦させてもらえたんです。

入山さん

―すごいですね! 具体的などんなことをやりましたか?

もともとは新しいWebサイトをつくるためにアルバイトが必要だということで応募したのですが、それ以外にもバナー制作やLP制作、アプリ制作、当時はフラッシュ全盛期なのでフラッシュでゲームをつくることもありました。

とにかく、Webデザインに関する知らないことはほぼ実制作で学んだというぐらい、いろいろとやらせてもらいました。

入山さん

―本当に幅広く、新しいことにチャレンジできる環境があったんですね。

当時はとにかく食らいつくのに必死でしたが、今思えばWebデザイナーとしてのキャリアがなかった私にとっては、最高の環境でしたよね。

1〜2年ぐらいアルバイトで経験を積んで、そのあと正社員のお話をいただいて、今に至るという感じです。ですので、私の場合は1社のみ、インハウス一筋ということになります。

入山さん



クリエイティブ専門チームの立ち上げから携わり、組織づくりを学ぶ

―社員になってからはどのようなお仕事をされたのでしょうか?

基本的にはデザインの仕事です。ただ、ちょうど会社の体制として、クリエイティブチームができたタイミングでした。それまでは各サービスに対してクリエイターが紐づくような体制でしたが、サービスから離してクリエイティブ専門のチームをつくったんです。これは個人的に一つの大きな転機だったかもしれません。

入山さん

―とすると、一つのサービスだけでなく、複数のサービスを横断的に見るようになったんですか?

そうです。今までは自分が担当するサービスのことしか知らなかったけれど、このタイミングでいろいろなサービスのクリエイティブが見られるようになったんです。それぞれで仕事をしていたデザイナーが一つのチームになったことで、自然と組織づくりや役割分担も考えるようになりました。

入山さん

―体制が大きく変わることで、大変だったことはありますか?

もともとバラバラだったので、みんな自分の領域のことだけやっていたんですよね。それが一つになると、どこまでが誰の仕事?といった切り分けを明確にするのが最初は難しかったですね。

入山さん

―何か工夫されたことはありますか?

大きく変えたのは、分業制にしたということ。以前はデザイナーとコーダーを分けていなかったんです。でも、やっぱり得意分野がそれぞれあるので、両方をやるよりも得意なことに専念した方がチームのパフォーマンスを最大化できるだろうと。結果的に分業制はとてもうまくいきました。

入山さん

―話を伺っていると、入山さんはもともと組織づくりや俯瞰でものごとを見ることに関心があったように感じます。

最初は純粋にデザイナーをやりたいと思っていました。でも、やらざるを得ない状況になってやってみたら意外と楽しかった(笑)。3年ほど前からグループ長をやらせてもらっていますが、グループ長になってからのほうが楽しいですね(笑)。

入山さん

―自分の性格に合っている?

それもそうですし、何よりもチームのメンバーが兄弟みたいに愛おしく思えるんですよね。誰かが失敗したとしても、それはそれで温かく受け入れられるというか。何事もおもしろく見られるようになった気がします。

入山さん



インハウスデザイナーの資質は、細かくてしつこい?

―15年ぐらいの社歴になると思うのですが、その中で転職を考えたことはあったのでしょうか?

一度だけありますね。うちを退職するデザイナーに辞める理由を聞くと、「デザイン会社でやってみたい」という人がけっこう多かったんです。その気持ちはよくわかるというか、一つの事業じゃなくて、いろいろなデザインに挑戦したほうが自分の幅が広がるのかな?と考えたこともありました。

入山さん

―それでも「辞めない」という選択肢を選んだのは何故でしょうか?

一番大きな理由は、「好きだから」ですね。それはサービスに対する愛情もそうですし、一緒に働く人たちに対する愛情もそうです。結局どんな仕事でも「人」とつくるものなので、そこにいる人が好きかどうか、サービスを愛せるかどうかが大事なので、無理して変える必要はないと思いました。

入山さん

―そうだったんですね。確かにいろいろなサービスに挑戦できるのはクリエイターとして魅力的ですが、一つのサービスをやり続けることのメリットもありますよね。

制作会社で働いたことがないので実態はわからないのですが、いろんな人に話を聞く限り、おそらく制作会社の良いところと真逆のところに、インハウスの良いところがあるのかなって思います。

入山さん

―どんなところがインハウスの特徴だと思いますか?

多分、私たちはすごく細かいし、しつこい。重箱の隅を突くようなことや、そんな小さなこと、誰が気にするの?という部分までこだわりつづける。ボタン一つの位置やカタチもそうですし、ボタンの文言の語尾はこれでいいのか?ということをひたすら議論する(笑)。

入山さん

―納期や締切がシビアな受託案件だと、確かにそこまでやり切れないかもしれないです。

その尋常じゃないこだわりは、ちょっと若い頃は理解できなかったほどです(笑)。でも、今はそれがすごく理解できるし、楽しいんですよね。

入山さん

―やっぱり、そこのこだわりが結果に表れる?

そうです。小さな改修でも悪いものに対してはユーザーからクレームを頂くし、良いものはSNSなどで褒めてもらえます。もちろん、数値にも表れます。ここにいなかったら、細部にこだわるというモノの考え方はできなかったかもしれないです。

入山さん

―結果がわかるというのも、事業会社の一つの特徴かもしれないですね。

そう思います。自分たちのサービスなので、それこそお問い合わせの内容も、解約時のアンケートも、SNSでの感想も全部見られます。だから、ここが良かったのか、ここが悪かったのかというのがよくわかるんですよね。

入山さん

―エンドユーザーの反応がモチベーションになりますか?

はい。特に私たちのサービスはファンの熱量がすごいんです。競馬というコンテンツ自体がユーザーのライフワークの一部というか、好きな人は毎日チェックするものですから、そのためのツールである私たちが担う責任は非常に大きいと思っています。

入山さん

―ユーザーからの反応もけっこう多いんですか?

多いと思いますよ。改修の良し悪しが、ユーザーの生活サイクルにダイレクトで影響しますからね。なので、ユーザーの期待以上のものを出して、喜んでもらいたいという気持ちが根底にあります。

入山さん

―デザイナーも競馬好きの方が多いんですか?

実はデザインチームはそこまででもなくて。企画や開発には競馬フリークがたくさんいますけど(笑)。どちらかというと、「競馬が大好きで世の中に広めたい」と思っている人たちと一緒に仕事をするのが楽しいという感覚だと思います。彼らの熱量をデザインで解決していくことが私たちの役目だと思っています。

入山さん

―サービスもそうですし、競馬業界に対する使命感もありますか?

はい。私たちのチームは「競馬のイメージをデザインで変える」という目標を掲げています。日本では競馬=ギャンブルのイメージが強く、悪いイメージを抱いている人も多いと思います。そのイメージを変える入り口に立っているのが弊社であり、イメージを変えるためにはデザインの力が欠かせません。デザインで競馬業界に革新をもたらしたいというのが、デザインチームの共通認識ですね。

入山さん



一つのことを大事に育てられるなら、インハウスはおもしろい

―インハウスに行こうか迷われているクリエイターの悩みとして、先ほど少し話にもありましたがスキルや領域が広がらないのではないかという懸念があるようです。ただ、入山さんの話を伺っていると、個人のスキルを伸ばすことよりも、サービスを成長させることを必死に考えて、その先にスキルやキャリアの広がりがあるような印象を持ちました。

そこは人にもよるかもしれないです。弊社にも技術先行で腕を磨きまくるスペシャリストタイプもいます。その人にはとにかく突っ走ってもらって、私たちが事業の中で活躍できる場を見つけてあげる。インハウスだから成長できないということはなくて、人それぞれスキルの伸ばし方や輝き方があるのではないでしょうか。

私の場合はたまたま、サービスを成長させたりチームのパフォーマンスを最大化させたりすることがおもしろいと思うタイプだったということ。それに、自分で作業したければできる状況をつくっているので、技術を落とさずにマネジメントを続けることもできます。

入山さん

―インハウス歴15年の入山さんとしては、どんな人がインハウスに向いていると思いますか?

一つのものごとを育てていくことを楽しめる人なら、向いていると思います。何か一つのことを大事にできる人、自分の力で少しずつ変えていって、持続的に成長させることを楽しめる人ですかね。

入山さん

―制作会社でガッツリ経験を積んでからインハウスの道を選ぶ人も多いですが、入山さんのように経験の浅い若手の時からインハウスに行くのもアリですよね?

もちろんです。弊社の場合は、若い子のほうがウェルカムなぐらいです。技術や経験よりもサービスに対する熱量や、性格的な部分でそこの会社と合うかのほうが大事だと思います。

入山さん

―ありがとうございます。最後に、今後の目標を教えてください。

チームが掲げている目標でもありますが、競馬がもっと日常に浸透したら良いなって思っています。それこそサッカーのように文化として根付いている状態。それを、弊社発信でしていきたいです。デザインの力でそれを実現できるように、これからもサービスをどんどん良くしていきたいと思います。

入山さん

―入山さんのようにインハウス一筋でキャリアを積まれてきた方の話を聞けることが少ないので、読者のクリエイターの方も非常に参考になったと思います。本日はありがとうございました!

(了)

取材/文
松山 響
撮影
上岡 伸輔
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