どの場所でも「want to」を忘れない。
その先に理想のキャリアがある

様々なキャリアデザインを実現しているクリエイターの皆さんに話を聞きながら、クリエイターの新しいキャリアデザインのあり方を考える「クリエイターインタビュー」。

今回は、戦略立案からクリエイティブの開発・運用までを手がけるインタラクティブエージェンシーの株式会社ドッツ(dots inc.)の坂本貴史さんに話を伺いに行きました。

IAやUXデザイン分野の第一線で活躍し続け、大手自動車メーカーのインハウスデザイナーを経験されたこともある坂本さん。

クリエイターのキャリアの選択肢が多様に拡がる中で、どのような心構えが必要なのか?

坂本さんご自身の経験をお聞きしながら、色々とアドバイスをいただきました!

坂本 貴史(さかもと たかし)さん

株式会社ドッツ
スマートモビリティ事業推進室室長

デジタルマーケティングエージェンシーにおいて、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発を担当。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。2017年より大手自動車メーカーに参画。先行開発の電気自動車におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。


MaaSなど新しい分野における事業を開拓

―2019年からdotsに参画されたとお聞きしましたが、今のお仕事内容を教えていただけますか?

国内大手鉄道会社のMaaS事業を支援しています。あまり聞きなれないかもしれませんが、MaaSとは「Mobility as a Service」、つまりモビリティサービスのことで、様々な移動手段を連携するためのプラットフォーム構築に携わっています。具体的には、複数のプロジェクト管理や戦略策定などの企画のサポートなどが僕の仕事になりますね。

坂本さん

MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念である。利用者はスマートフォンのアプリを用いて、交通手段やルートを検索、利用し、運賃等の決済を行う例が多い。

国土交通省ウェブサイトより抜粋 https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf


―恥ずかしながら、初めて聞きました。新しい分野というか、概念なんですね。

はい、僕がdotsに参画したタイミングで、スマートモビリティ事業推進室という新しい組織を立ち上げたんです。MaaSを含む新しい分野における事業を開拓するような立ち位置なので、一般的には営業企画のような役割になると思います。

坂本さん

―坂本さんと言えば、IAやUXの分野で知らない人はいないんじゃないかというぐらい第一線でご活躍されてきたと思うのですが、今はまた少し違う役割をされているのでしょうか?

自分としては、ずっとUXの仕事をしているつもりですが、プロジェクトに関わる領域やアウトプットとして提示するものが変わってきた感じだと思います。

坂本さん

キャリアの転機となった、ITベンチャー時代に直面した壁

―今回はクリエイターのキャリアデザインを考えるということで、デジタルエージェンシーや大手自動車メーカーなど様々な場所で経験を積まれてきた坂本さんのキャリアに色々と学びたいと思うのですが、坂本さんは最初からUXデザイナーだったんですか?

遡れるところまで遡ると、最初は関西でグラフィックデザイナーをやってました。ポスターなどの印刷物をデザインする人。それで、ちょうど世の中がアナログからデジタルに移行していくタイミングだったので、Webサイト(当時はホームページ)のデザインも少しずつやるようになりましたね。ところで、昔はコーディングって、ほとんど意識しなかったんですよ。いわゆるビジュアルエディタでしか作業していませんでした。

坂本さん

―えーっ、そうなんですね。

その後、Webデザインを専門にしたくて関西のITベンチャーに自分で応募して入ることができたんですが、テキストエディタでコーディングする世界だったので、ものすごく挫折しました(笑)。

坂本さん

―そのタイミングで本格的にデジタルの領域にスイッチされたんですね。

はい、その後、東京の会社に誘っていただきWebデザインやWebディレクションの基礎をたくさん勉強させてもらいました。いわゆる修行時代ですね。
 
でも、今振り返ってもそう思うんですが、当時まわりにいたデザイナーが優秀な方ばかりで。果たしてデザイナーとして彼らを超えられるのか?という壁に直面したんです。
 
その時に、僕はクリエイティブディレクションに対する関心が強かったので、そっちを本格的に勉強するようになりました。

坂本さん

―その過程で、IAと出会ったんですか?

もともと情報設計が重要だと思って自分たちでも実践していたのですが、ちょうど同じタイミングで海外の外資系企業を中心にインフォメーションアーキテクチャの分野が注目され始め、便利なツールやノウハウも出始めてきたんです。
 
それで、自分たちがやってきたことがIAなんだなと、そこでようやく紐づいた感じです。当時は海外の情報も含めて積極的に情報収集し、得られた知識を実践でアウトプットして、その繰り返しで手法や経験値を積み重ねていました。

坂本さん

IAやUXを武器に、コミットする領域をどんどん拡げる

その後、国内大手のデジタルマーケティングエージェンシーに参画しました。そこでは、デジタルプロダクトの戦略から運用まで携わり、IAやUXといった分野を専門とするようになります。

坂本さん

―制作に携わるだけでなく、ご自身のブログで情報発信したり、講演されたりなど、IAやUXデザインに関する発信を積極的にされていたのが印象的でした。私も一度、坂本さんの講演を聞きにいったことがあるんです。

そうでしたか(笑)。インプットした知識やノウハウを、制作の現場でアウトプットするだけでなく、ブログや書籍、講演などで情報発信することはかなり意識してやってましたね。

坂本さん

―会社ではどのような役割を担っていたのですか?

かれこれ10年以上在籍させてもらっていたので、話すと長くなるのですが(笑)、駆け足で話すと、最初は制作ディレクターから始まり、徐々に制作の前段階である企画やプロデュースにも携わるようになり、ときには営業のような役割を担うこともありました。
 
どの役割でも表現するアウトプットはUXデザインに即したものを提供していたので、僕の中では大きな変化はなかったのですが、関わり方の深さや領域が変わっていったのだと思います。

坂本さん

―だんだんと、プロジェクトの上流のほうに関わるようになったと言いますか。

そうですね、最後のほうは事業企画や経営企画などに携わる、ある種コンサルのような立ち位置になっていたと思います。
 
そういった変化の中で、エージェンシーの立場で自分が貢献できる領域がある程度見えてきたんです。そして、ここからもう一歩ジャンプするにはどうすればいいか?という視点で物事を見るようになりました。

坂本さん

―それが自動車メーカーに転職されたきっかけだったのですね。他の選択肢も考えたのですか?

メーカーの他にも、小規模なクリエイティブ系の会社やコンサルファーム、大学などの学校系など色々な選択肢を考えました。その中でも、当時はIoTという言葉が広まり始めた時期でもあったため、僕自身もプロダクトデザインに興味が移ってきたんです。
 
自動車業界でも「コネクテッド」というキーワードで、車とインターネットをどう繋げるかが大きなテーマの一つでした。そのときに、ご縁のあった自動車メーカーに話を聞きにいったのが転職のきっかけですね。

坂本さん

製造業のインハウスデザイナーになって学んだこと

―自動車メーカーではどのようなお仕事をされていたのですか?

まず、コネクテッドが興味の入り口だったのですが、話を聞くうちに車両のデザインにもUXの視点で貢献できると思い、自動車のHMIデザインに携わることになりました。具体的には運転席まわりのソフトウェアとハードウェアのデザイン。その先行開発を職域としていました。
 
同時に、アプリやクラウドといった外部環境と車の中のソフトウェアとどのように連携するのかをUI/UXの視点から考える仕事もしていました。

坂本さん

―デジタルからハードへと扱う対象が変わったことも大きな変化だと思うのですが、インハウスデザイナーになって具体的にどんな変化がありましたか?

前提として、僕の場合は製造業であり、自動車メーカーのインハウスデザイナーということになると思うので、いわゆるIT系のインハウスデザイナーとは状況が大きく異なると思います。
 
その上で僕が経験したことをお話しすると、やはりそれまでの仕事のプロセスとは違うことや求められる役割が大きく変わっていたので、キレイに言えば新鮮な学びが多かったですね。

坂本さん

―特に歴史ある大手自動車メーカーだと、制作会社やエージェンシーのプロセスとはだいぶ違いがありそうですね。

自動車メーカーの場合、一つのプロダクトの開発期間が数年に及び、企画、デザイン、開発などのプロセスが分業になります。とても大きなプロジェクトの中で、自分のスキルをどう位置付けていくかが非常に重要でした。

坂本さん

―細分化された役割が前提としてある中で、そこにご自身のスキルをどう適合させていくかがポイントだったんですね。実際、これまでとのギャップに苦労したこともありましたか?

僕の場合は先行開発だったので、未来の車のことをUXの視点から考えるのが仕事でした。そうすると、旧来の製造プロセスではなく、細分化された領域を横断したり、新しいプロセスを構築したり、もしかすると新しい組織を立ち上げる必要もあるんじゃないかと思ったんです。
 
でも、それを製造業の確立された体制の中で実現するには様々なハードルがあるため、そこはずっと試行錯誤していました。

坂本さん

―そうだったんですね。確かに大きな組織であるほど、プロセスを変えるのは大変そうですね。

ただ、視点を変えれば、自動車メーカーのインハウスデザイナーになったからこそ、経験できたことは大きかったと思います。実際、未来のモビリティを考えるには新しい事業の形を作らないといけないという課題意識を持ったことが、今のMaaS事業への興味や、dotsへの参画に繋がっているので、自分の中では非常に大きな学びを得られました。

坂本さん

―他にも、インハウスならではのメリットはありましたか?

やはり、最終的にできあがるものが大きいほど社会的なインパクトも大きいので、そこはやりがいでありモチベーションの源泉になりました。部分的にしか携わっていなかったとしても、プロダクトが世に出たときの喜びは格別ですね。今年の東京モーターショーでそれが見れたので個人的にも感無量です。

坂本さん

「want to」を軸に、自分から動くことが大切

―製造業のインハウスデザイナーを経験された立場ならではの、貴重な話を教えていただきありがとうございます。クリエイターのキャリアの選択肢が拡がった一方で、どんなキャリアを描こうかと悩んでいるクリエイターもたくさんいると思います。キャリアをデザインするにあたって、最も大切なことは何だと思いますか?

「have to」ではなく、「want to」で考えることだと思います。

坂本さん

―自分がどうしたいか、ですか?

はい。事業会社に限らず、制作会社やエージェンシーであっても、自分がどうしたいのかを見失わないこと。
 
たとえ、大きな組織の中にいたり、プロデューサーなど直接手を動かす立場にいなかったとしても、クリエイターには「自分で表現したい」という思いが根幹にあるはずです。それがなくなると、仕事はただの作業になってしまうかもしれない。
 
クリエイティブな仕事をするなら、個人としての思いや評価を見失わないことが大切だと思います。

坂本さん

―そのためには、どんな心構えやアクションが必要だと思いますか?

僕の経験上おすすめしたいのは、仕事以外のアウトプットやネットワークを作ることです。僕自身、ブログを始めたり講演イベントなどに参加するようになってから、個人としての評価を知ることができて、視界も大きく開けました。
 
「want to」を忘れずに、自分から積極的に外の世界と関わっていく。そういった活動の中に、その人にとって理想なキャリアを描くためのヒントやチャンスがあるのではないかと思います。

坂本さん

―とても刺激的なアドバイスをありがとうございます!自分が何をしたいのかを忘れずに、アクションを起こしていきたいと思います。本日はありがとうございました!


個人の活動を行うことの大切さを教えてくださった坂本さんは、「カロッツェリア」という招待制コミュニティを運営しています。その活動のひとつに「MaaS x Card」というワークショップ型体験カードのプロジェクトがあります。現在クラウドファンディング公開中ですので、興味ある方はぜひ一度ご覧になってみてください!

ノンデザイナーのためのデザインツールを開発したい – CAMPFIRE 

取材/文
松山 響
撮影
上岡 伸輔