成長のチャンスはインハウスにこそある
百戦錬磨のデザイナーが事業会社を選んだ理由

フリーランスでグラフィックデザイナー/Webデザイナーのキャリアをスタートさせ、その後Business Architectsの立ち上げに携わり、楽天、OKWAVEなどを経てfreeeに転職した96/KuRo(以下96)さん。

フリーランス、制作会社、事業会社とさまざまな立ち位置で活躍してきた彼がインハウスの道を選んだ背景には、どのような考えがあったのでしょうか?

これからのキャリアに悩む全てのクリエイター必見のインタビューです!

96/KuRoさん

freee株式会社
UX/UIデザイナー

東京造形大学デザイン学科出身。在学中からフリーランスでグラフィックデザイナーを開始。Webデザイン制作会社 Business Architects の立ち上げに参画。Webデザイナー、アートディレクターとして様々な大手企業のWebサイト制作に携わり各種デザイン賞を受賞。その後、楽天株式会社、OKWAVEを経てfreeeに参加。UXデザイナーとして、サービスのUXデザイン、UIデザインを行っている。


学生時代からフリーランスとして活動。『ホットドッグ・プレス』の連載を持つ

―はじめに、今の仕事内容を教えていただけますか?

会計freee人事労務freee開業freeeなど各種サービスに関わり、現在はfreeeの100%子会社であるfreee finance lab(フリーファイナンスラボ)が提供しているサービス全般のUXデザインを担当しています。
 
当社では、個人事業主や中小企業などのスモールビジネスに向けて、freeeのクラウド会計データをもとに、ユーザーごとに最適化された資金繰り改善を提案するサービスを提供しています。
 
通常、銀行から融資を受けたい時は銀行へ何度も行って数多くの書類を提出し、何週間もの審査を経てようやく借りられる金額や利率がわかりますが、当社のサービスである「オファー型融資」では借りられる条件が事前にわかり、先々の資金繰りの予測もできるといったメリットがあります。

96さん

―UXデザインは具体的にサービスのどのような部分に関わってくるのでしょうか?

ひとことで言えば、「設計」です。プロダクトオーナーが企画したサービスに対して、どのような機能を提供するか、どのような動きにするかといったサービス設計から携わります。その後、ユーザー調査や情報設計を行っています。

96さん

―デザインも担当されているんですか?

弊社はデザインシステムが整備されているので、デザインに関しては既存のパーツを組み合わせて作ることがほとんどです。なので、弊社のUXデザイナーには、いわゆるWebデザイン的なUIデザインをする役割は、ほぼありません。

デザインシステムを構築するデザインチームと、プロダクトのUXデザインを行うプロダクトデザインチーム、リサーチを専門とするUXリサーチチームに分かれています。

96さん

―そうなんですね。ありがとうございます。現在のお仕事の話はまた詳しくお聞かせいただきたいと思うのですが、その前にfreeeに所属されるまでの経歴を教えていただけますか?

東京造形大学在学中からグラフィックデザイナーやエディトリアルデザイナーとして雑誌等の紙系の仕事をしていました。
 
分かりやすいメジャーな物だと、今はなき『ホットドッグ・プレス』という雑誌で連載記事を担当していました。

96さん

―ええ、すごいですね!何について書いていたんですか?

当時はちょうどDTPの過渡期で、僕が担当したページが雑誌の中で唯一DTPで作っていたページだったんです。「名品のしくみ」という色々なジャンルの名品を紹介するページで、アートディレクション、エディトリアルデザインを行い、ガジェット系であればライティングもしていたりしました。
 
卒業後はそのままフリーランスになり、紙系の仕事を続けながら、徐々にCD-ROMやWebデザインのデジタル系の仕事もするようになりました。

96さん


多彩なキャリアを経験した上で、freeeを選んだ理由

―フリーランスからキャリアをスタートしているのですね。

はい。その後、アートディレクターの福井信蔵さんに弟子入りして、その後、彼が中心となって立ち上げられたBusiness Architectsに初期メンバーとして参加します。

そこではWebデザイナー、アートディレクターとして受託制作の仕事を中心に行い、またデザイナーのマネジメントにも携わっていました。

96さん

―受託制作会社でさらに経験を積まれて、そして事業会社に?

はい。数年ほど経って「もう少し違う経験がしたいな」という気持ちが生まれ、楽天に転職しました。これがインハウスデザイナーとしてのキャリアの始まりですね。

制作専門の部署でクリエイティブのプロセス作りをしたり、当時クリエイティブディレクターを務めていた佐藤可士和さんの手伝いをしたり、コーポレートサイトやサービスサイトの制作など色々やらせていただきました。
 
さらにその後、OKWAVEというQ&Aサービスの事業会社でのデザイン室長を経て、freeeに転職しました。並行してフリーランス活動もしていたのですが、大まかに振り返るとそのような感じです。

96さん

―とても多彩で豊富な経験をお持ちの96さんですが、freeeを選んだ理由はどんなところにあるのでしょうか?

実際に面接等で事前に社員の数名とお会いして、みんなロジカルでクレバー、スマートだったところに惹かれたんです。お互いに異なる領域の話でもどんどん会話が前に進むし、質問も鋭いポイントを突いてくる。この人たちと働けばきっと良いサービスが作れるし、面白そうだなと思いました。
 
それから、これは入社してから気づいたことですが、freeeには営業、デザイナー、エンジニア、バックオフィス、カスタマーサービスなどさまざまな職種の人がいますが、みんなが他の領域の仕事をリスペクトしているところも魅力的でした。

96さん

―事業会社の中には、セールス系とクリエイティブ系で対立するというケースもたまに聞くので、協力関係が築けているのは素敵ですね!


リアルな数字もユーザーのリアルな欲求も全て可視化できる

―96さんはすでに楽天やOKWAVEで事業会社を経験されていましたが、次のステップとして再び事業会社を選んだのはどうしてでしょうか?

昔からデザインは機能的なものだと思っていて、目的を達成するために機能するデザインをもっと磨きたいという思いがありました。そのためにはサービスや事業の実態を知る必要があります。
 
受託会社の場合、クライアントが本音を隠したり厳しい数字などを共有しないケースもあるじゃないですか。でも、そういったリアルな情報こそが、目的を達成するためのデザインを考える上ではとても重要なんです。
 
その意味で、インハウスで働くことが今の自分にとっては最適な選択だと考えました。

96さん

―実際にインハウスデザイナーになったことで、デザインに対する考え方に変化はありましたか?

デザインに対する考え方は昔から変わりません。ただ、当初の目論見通り、整えたり加工されたりしていない生の情報や、サービス提供側の本音に触れられるので、よりデザインの機能性を高められていると実感できています。

96さん

―そうなんですね。制作会社の頃と比べて、時間の使い方も変わりましたか?

そうですね、受託だとクライアントの事情に合わせて動くことが多かったので、その頃に比べるとスケジュールをコントロールしやすくなりました。そのぶんインプットの時間、考える時間を確保しやすくなりましたね。

96さん


「走っている電車を止めずに改造し続ける」それが難しさでもあり、やりがいでもある

―逆にインハウスならではの悩みや難しさはありますか?

例えば、外から見ると「ここを変えたらもっと綺麗になるんじゃない?」といった改善ポイントを思いつくこともあると思います。

でも、実際に中に入って取り組んでみると、長く続いているサービスや事業の場合、さまざまな事情が絡み合って変えることが意外と難しいこともあります。ある部分をいじると、対象外の他の部分、思ってもいなかったところが崩れるなどの影響が出たりするとか。

96さん

―原因をひも解いていくと、実は根深い事情があったりするのですね?

そうです。継続しているサービスのデザインに関わるということは、走っている電車を止めずに改善し続けるようなもの。

受託でWebサイトの制作やリニューアルを担当していた時は、走っている電車の横で新しい電車を作って、完成したら「エイッ」と入れ替える仕事が多かったのですが、Webサービスの運用を、しかも限られた人数でやっているとそういうわけにはいかない。電車を走らせたまま、徐々にスムーズに、スマートにしていく必要があります。

96さん

―情報を発信するWebサイトとは違い、Webサービスだと改善している最中も多くのユーザーが利用していますもんね。

テレビのリモコンのボタンの配置が毎日変わったら不便ですよね。

後先を考えなければ、「こうだったらいいな」というアイデアは色々と思いつきますが、今使われているもの、これからも使われるものをより良くするのであれば、急にドラスティックに変えるよりも、少しずつ変えてユーザーが使い方を学習し直すコストを分散した方が良い場合もあります。

その意味で、中長期的な視点を持ってサービス改善に取り組まないといけません。

96さん

―そこが難しさでもあり、やりがいであると?

まさにそうです。ガラッと変えるのではなく、グラデーションで変化させていく。ユーザーも気づかないうちに良くなることに今はチャレンジしています。

96さん


インハウスは自分次第で、成長もできるし停滞もできる

―さまざまなキャリアの形を経験されてきた96さんから見て、どんな人がインハウスデザイナーに向いていると思いますか?

これはけっこう難しい質問ですね。ただ一つ言えるのは、インハウスは安定志向の人に向いていると思われがちですが、僕は成長志向の人にも合っていると思うんです。
 
例えば、インハウスであっても、幅広く経験を積みたいと手を挙げれば、違う領域に挑戦させてくれる会社は多いです。しかもサービスや事業の奥深いところまで携われます。
 
もちろん制作会社の場合も、いろいろな仕事にガンガン携わって経験を積むことはできます。ただ、その一つひとつがディープな部分にまで携われるかというと、必ずしもそうではないと思います。

96さん

―先ほどおっしゃっていたように、サービスや事業の根深い部分を知ることが、目的を達成するためのデザインを磨くためには大切ということですね?

そうですね。ただ、インハウスはラクをしようと思えばラクができる環境ではあると思います。

インハウスだと役割や関わる領域が固定化することが多く、効率化しやすい。なので、ラクしたいと思ったらいくらでもラクができるので、結果、何年やってもできることが一向に増えないという状況になってしまうかもしれない。
 
なので、自分で主体的にインプットする人、プライベートの時間で何かを学んだりアプトプットする人じゃないと、一生その会社に居続けるなら良いかもしれないですが、例えば、新しいことに挑戦したいとか、その会社が傾いて外に出ないといけないといった状況になった時にすごく苦労すると思います。

96さん


キャリア選択の軸は「誰と、いつ、どこで」を考えること

―最後に、これからのキャリアに迷ったり悩んだりしているクリエイターの方々にアドバイスをいただきたいのですが、96さんはキャリアを選択するときに何を軸に考えているのでしょうか?

身も蓋もない話ではありますが、まずは待遇です。

単純に生活のこともあるけれど、それ以上にお金はその会社におけるデザインに対する考え方、どれだけ価値があると考えているかを感じられる尺度だと思うんです。いくら口頭でデザインが重要だと言われても、金額が安いということは重要視されていないということですよね。
 
デザインの価値を感じている人たちと仕事をするのか、デザインにあまり価値を感じていない人たちと仕事をするのかでは、仕事のしやすさが違います。これは単にラクかどうかではなく、デザイナーとして貢献がしやすいかどうかということです。

96さん

―確かに数字はわかりやすい指標ですよね。

その上で、「誰と、いつ、どこで」を考えることが大事。
 
「誰と」に関しては、もし自分が変化したいなら新しい刺激を得たほうが良いと思うので、今まで一緒に仕事をしたことがないタイプの凄い人たちと仕事をすべきだと思います。

それから、よく「会社は社長の器以上にならない」と言われるように、社長の描く未来にワクワクできるかどうかも判断の一つポイントにしています。

96さん

―ありがとうございます。「いつ、どこで」についてはどうですか?

「いつ」に関しては、興味のある業界や会社が社会的に今どのくらい盛り上がっているのかということ。
 
「どこで」に関しては、その会社の業界におけるポジションがどこにあるのか、ということを調べるのが大切だと思います。

96さん

―社会における業界の状況、業界における会社の状況を俯瞰して掴むことが大切ということですね?

はい。ただ、それは社会的なブランド価値に重きを置くという意味ではありません。戦略的に自身のプロフィールを魅力的にするための選択ならそれはアリかもしれないけれど、安易にメジャーだからといって選択するのは意味がないと考えています。
 
「いつ、どこで」というのは、重要度の順番にもなっていて、「どこ」で働くとしても、結局のところ「いつ」、つまりタイミングが重要だと思います。今の自分にとって必要なものが、「いつ」、「どこ」に行けば手に入るのか。それを知るためにも、実際にそこで働いている人に会って話してみるのが良いのではないでしょうか。

96さん

―貴重なアドバイスをありがとうございます!自分のタイミングとマッチする会社や仲間を見つけることを意識したいと思います。本日はありがとうございました!

松山 響
撮影
上岡 伸輔