重要性が高まるカスタマーサクセス(CS)とは、どういった哲学なのでしょうか?
シリコンバレーのSaaS業界から広まり、注目される理由には一体どんな時代背景があるのか、CSの基礎知識から具体事例まで詳しく解説しています。
カスタマーサポートとの違いや、カスタマーサクセスを体現している老舗企業の事例、日本で受け入れられている理由もあわせて紹介しましょう。
カスタマーサクセスとはSaaS業界から広まった経営哲学
カスタマーサクセス、通称「CS」とは、顧客の成功のために能動的な問題解決をはかる職種や部署のことです。
カスタマーサクセスとはシリコンバレーのSalesforce社の創業者、Marc Benioff氏が提唱した経営哲学から端を発しています。Salesforce社がソフトウェアをオンライン上で使えるSaaSの草分け的存在であることから、カスタマーサクセス思想はSaaS業界から世界へと広がりました。
そして今やカスタマーサクセス思想に基づく業務や部署は、大企業もこぞって取り入れるほどの流行をみせています。
カスタマーサクセス流行の時代背景はモノからコトへの流通形態変化
カスタマーサクセスがここまで流行している理由は、モノ消費からコト消費へと流通形態が変化した時代背景にあります。
これまで多くの企業は、顧客に対してカスタマーサポートを行ってきました。顧客からのクレームや要望があった際に、受け身で対処するのがカスタマーサポートです。カスタマーサポートは顧客の「不満」からスタートしている点が特徴といえます。
カスタマーサポートとは、物やサービスを販売することで顧客との関係が終了する方式のビジネスには最適なスタイルといえます。
カスタマーサクセスとはサブスクリプション時代に適した顧客との関係性
現代はモノからコトへと流通形態が変化しています。市場は成熟化し、販売や買い取りよりも、顧客へ何か貸し出したり、定額制でサービスを利用してもらう配達制の新聞のような、いわゆるサブスクリプション方式が主流となりました。
Salesforce社のようなクラウド型や、フリーミアム型、シェアリングエコノミー型、ソーシャル型などがビジネスの主流となっています。それに伴い企業と顧客の関係性も変化してきました。
こうした流通形態において、企業は継続して顧客に利用してもらう必要があります。そのため顧客と長く付き合い、顧客を成功へと導くことこそが、企業の利益に繋がるという思考へとシフトしています。企業はカスタマーエクスペリエンス(CX)こそが他社との差別化ポイントだと考えるようになったのです。
サブスクリプション時代に適した顧客との新しい関係性の理想形が、カスタマーサクセスだといえます。
カスタマーサクセスとは顧客伴走スタイル
従来型の顧客の不満点を出発とするカスタマーサポートから一歩進んだ形として、カスタマーサクセスは位置付けられており、顧客と契約した瞬間からスタートする点が大きく異なります。
カスタマーサクセスは顧客が掲げる目標達成のために、能動的な形で問題や課題を顧客と共に解決します。
「顧客対応」スタイルであったカスタマーサポートに対し、カスタマーサクセスとは「顧客伴走」スタイルとも言われ、注目が集まっているのです。
カスタマーサクセスの成功事例3社
カスタマーサクセスを導入して成功している企業を3社紹介します。
カスタマーサクセスという言葉が登場する以前から、すでに客本位を体現している日本企業にもスポットをあてます。
◇カスタマーサクセスの成功事例1 Slack Technologies
カスタマーサクセスを体現する企業として、世界的に最も名を馳せているのがビジネス用チャットツールSlackです。日本ではビジネス用チャットツールといえばChatworkが人気ですが、SlackはGoogleカレンダーやInstagram、Twitterなどの多数の外部サービスやアプリと連携できる点が強みとなっています。
Slackは写真共有サービスFlickrの創業者、スチュワート・バターフィールド氏が、オンラインゲーム開発の際に使うビジネス用のコミュニケーションツールとして開発したものです。2014年2月にリリースされ、2019年12月時点でのアクティブユーザーは世界で1,200万人、日本でも50万人以上が利用しています。
Slackでは外部アプリとの連携のほか、導入企業の成功事例を集約しており、イベントなどで共有する取り組みを積極的に行っていることから、カスタマーサクセスに優れていると評判です。
◇カスタマーサクセスの成功事例2 Adobe
Adobe社はクリエイターにはお馴染みのIllustratorやPhotoshopなどのソフト開発を手がける会社です。Adobe社は2012年にCreative Cloudをリリースし、従来のソフトを販売する「箱売り」スタイルから、サブスプリクションスタイルへと大きく変貌を遂げました。
これにより、顧客は常に新しいバージョンのソフトを利用できるようになり、これまで様々な場面で起こっていた旧型ソフトによる不具合が改善しています。
Adobe社の売上はサブスクリプション化によって一時的に落ち込んだにも関わらず、株価は上がり、SMB(Small and Medium Business)向け企業として最もカスタマーサクセスを成功させた事例と言われています。
◇カスタマーサクセスの成功事例3 任天堂
日本において、カスタマーサクセスを体現している代表的な大手企業の1つは任天堂でしょう。任天堂は1889年(明治22年)に京都で花札の製造からスタートした、大手ゲーム機メーカーです。
カスタマーサポートという言葉にすら馴染みがなかった頃から、任天堂はカスタマーサクセスを行っていました。
子どもの頃ゲーム機を修理に出したら京都からわざわざ届けてくれた、病院で古いゲーム機を落として壊したら「ご入院中でしたら」と新品が送られてきた、たくさんシールを貼ったゲーム機を修理に出したら修理が出来ないほど壊れていたため、同じ新品のシールを同じ位置に貼った新しいゲーム機が送られてきた、といった逸話が多数語り継がれているのです。
ゲーム機メーカーはハードを購入した後はソフトを繰り返し購入してもらうことで収益を上げる販売スタイルのため、カスタマーサクセスが重要な業態ではありますが、他社では真似できない神対応ぶりで顧客との信頼関係を強固なものにしていきました。
カスタマーサクセスは日本古来のお客様第一主義
カスタマーサクセスという言葉自体はアメリカのシリコンバレー発祥ですが、日本では古来より「お客様は神様」、「顧客第一主義」、「客本位」、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」といった顧客本位の商売哲学がありました。
京都をはじめとする「一見さんお断り」の風習も常客を重んずることで、親子何代も続くリピーターを大切にする精神こそが、商売繁盛の秘訣として多くの商家で受け継がれています。
現代では「神対応」や「おもてなし」という言葉に姿を変え、ネットでも多くの企業名が挙がっており、任天堂だけではなく、トヨタやカルビー、カゴメ、老舗の百貨店や旅館、銀行など、多くの日本企業で当たり前のように実践されています。
たとえばトヨタは顧客の引っ越しを当たり前のように手伝い、百貨店の外商は顧客の見合い相手を探します。老舗の旅館では宿泊客が食べ終わった頃を見計らって次の料理が供され、銀行の優れたバンカーは、無料の経営コンサルタントのように企業に寄り添います。
日本の顧客第一主義こそが、カスタマーサクセスと同義もしくはそれ以上とも世界では讃えられているのです。
しかし、こうしたカスタマーサクセス重視の戦略が残業や休日出勤を増やす一因となるため、見直す動きがあることも事実。今後はバランスや線引きを企業としてどこに置くかが課題となるでしょう。
カスタマーサクセスこそが時代の本流となるサービス形態
カスタマーサクセスは、サブスクリプション時代の本流となるべき顧客サービス形態であることは間違いないでしょう。
カスタマーサクセスという言葉自体はまだ新しいものですが、その本質は日本古来より受け継がれる顧客本位主義と同義です。顧客本位主義は日本が世界で賞賛される所以の1つであり、これからも受け継いでいきたい経営哲学といえます。