家族を守りながら大きな夢に挑戦する。
クリエイターの可能性を拡げる「常駐フリーランス」という働き方

様々なキャリアデザインを実現しているクリエイターの皆さんに話を聞きながら、クリエイターの新しいキャリアデザインのあり方を考える「クリエイターインタビュー」。

今回お話を伺ったのは、複数の企業に常駐しながらフリーランスのWebプロデューサー・UXデザイナーとして活躍されている真鍋憲士さん。

Web制作会社、大手企業、スタートアップなど様々なキャリアを経験されてきた真鍋さんに、現在の働き方を選んだ理由や、パラレルキャリアのメリットや大変さを聞いてみました。

真鍋 憲士(まなべ けんじ)さん

Webプロデューサー/UXデザイナー

株式会社キノトロープでWebディレクターとして働いたのち、ヤフー株式会社のオークション事業部、リクルートグループのメディアテクノロジーラボ(MTL)、リクルートマーケティングパートナーズ等でディレクターを歴任。その後、スタートアップへの参画を経て、2018年からフリーランスに。



制作会社のディレクターから、大手サービスの新規立ち上げまで幅広く経験

―早速ですが、現在どんなお仕事をされているのか教えていただけますか?

2018年からフリーランスとして独立し、今はおもに3社のお手伝いをしています。ひとつは大手出版社のD社に週3日常駐し、WebメディアのUX設計・改善や新規事業を担当しています。

それから、越境ECサービスを提供しているJ社に週2日常駐し、Webプロデューサー・UXデザイナーとしてプロダクト開発からマーケティングまで幅広くお手伝いをさせてもらっています。あとはもう1社、スタートアップ企業で新しいサービスのソリューション営業をしています。

真鍋さん

―そうすると、フリーランスですが週5日常駐していることになります?

はい。フリーランスになる時から企業に常駐することは想定していたのですが、思ったよりも出勤していますね(笑)。

真鍋さん

―そうなんですね(笑)。お仕事についてはまた詳しくお聞きしたいのですが、これまでの経歴も教えていただけますか?

関西の大学を卒業後、大手のITアウトソーシング企業に就職しました。インターネットに携わる仕事をしたかったのですが、当時まだ関西にはIT企業が少なかったので、その会社のマルチメディア事業部という部署に入りました。

真鍋さん

―その時は、まだWebディレクター職ではなかった?

はい、一般職です。でも、入社後すぐにマルチメディア事業部が潰れて、コールセンターの部署に異動になってしまいました。社風が合わなかったこともあり、1年で潔く辞めて、デジタルハリウッドに通い始めたんです。

真鍋さん

―もともとクリエイティブ系の仕事に興味があったのでしょうか?

昔から絵を描いたり、モノを作ったりするのが好きでした。退職した時、もう一度自分は何をやりたいのかを真剣に突き詰めたら、Webデザイナーという答えに辿り着いたんです。

デジハリには当時「mac総合プロコース」という半年コースがあって、そこでPhotoshopやFlashなどのAdobe系のツールやWebサイトのデザインやコーディングなどを覚えながら、クリエイティブの仕事の基本を学びました。

真鍋さん

―最初はデザイナー志望だったんですね。

そうなんです。でも、デジハリでWebディレクターに関する講座を受けているうちに、こっちのほうが面白そうだなと。Webディレクターで行こうと決めたのはその時ですね。

真鍋さん

―デジハリ卒業後、すぐにWebディレクターとして就職されたのでしょうか?

就職先の選択肢が少なかったので、まずはネットワークを広げようと思ってデジハリのバイトスタッフになりました。1年ほど働いた頃、社員の方から「今度キノトロープが出張セミナーでこっちに来るけれど、もしかしたら面接をやるかもよ?」と言われて、経歴書を持ってセミナーに参加しました。すると、セミナー後に「希望者がいれば面接します」というアナウンスがあり、経歴書を持参していたのは自分だけでした。そんな経緯を経て、2000年10月にキノトロープへ入社することになりました。

真鍋さん

―すごい! 積極的な姿勢が実を結んだのですね。

そこから3年弱、みっちり修行してWebディレクターの仕事を学びました。キノトロープは当時からものすごく勢いのある制作会社でしたから、そこで得られた経験は基礎体力になっていますし、今でもかなり役立っています。特に「ユーザー視点」を身につけられたのは大きかったですね。感謝しています。

真鍋さん


―それこそ、一流のクリエイティブが生まれる場所だったと思うので、得られるものは大きいですよね。

はい。3年弱いろいろな制作案件をやらせてもらったあと、次はヤフーに転職しました。

真鍋さん

―ヤフーに転職されたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

受注型の制作案件はやりがいがある一方、作ったら終わりになることが多いので、一つのサービスにもっと深く携わりたいと思っていました。ゆくゆくは自分でサービスを作って起業したいという気持ちもあったので、サービス側に行ってみようと。オークション事業部という部署の企画室に所属し、ヤフーオークションのC(カスタマー)向けの機能追加やUI改善、プロモーションやキャンペーン施策など、ここでもいろいろとやらせてもらいました。

真鍋さん

―ヤフーではどのくらい働いていたのでしょうか?

4年弱です。将来的にCtoCのサービスを自分で作りたいと思っていたので、非常に勉強になりましたね。ただ、今度はBtoCのサービスも一度学びたいという気持ちが生まれ、ちょうどご縁があったリクルートに転職します。

真鍋さん

―そうだったんですね。リクルートではどんなお仕事をされたのでしょうか?

リクルートは紙媒体をずっとやってきた会社なので、当時はまだインターネットにそこまで強くありませんでした。そこでインターネットマーケティング局(IMO)という専門チームを立ち上げて、Web人材を組織し始めたんです。最初はそこに所属し、UI/UX担当として様々な事業部の新規サービスやリニューアル、改善案件をサポートしました。

その後、リクルートホールディングスのメディアテクノロジーラボ(MTL)というR&D系の部署に異動し、今度は複数の新規事業の開発に携わります。

それから、「スタディサプリ」。昔は「受験サプリ」と呼んでいましたが、受験サプリの立ち上げメンバーとして参加し、主にプロダクト設計、デザイン・開発ディレクションを担当しました。リリース後は受験サプリのUI/UXチームをまとめながら多種多様な改善施策を繰り返していました。まさにPDCAですね。

合計で9年弱ほど、リクルートグループに居たことになります。いろいろなサービスに立ち上げから関われた経験はとても大きかったです。その後、ヤフー時代の先輩に声をかけられてスタートアップ企業へ行き、3年プロデューサー・取締役として携わったあと、フリーランスになりました。ざっと説明すると、このような経歴になります。

真鍋さん


―ありがとうございます。クリエイティブ業界で有名な制作会社日本トップクラスのサービス事業会社、そしてスタートアップベンチャーと、本当に様々な経験をされてフリーランスになられたのですね。


常駐フリーランスの良さは、安定しながら時間も確保できること

―様々な会社を見てきた中で、フリーランスという道を選んだ理由は何でしょうか?

デジタルハリウッドに通っていた頃から、いつか自分でサービスを作って起業したいと考えていました。いろいろな理由が重なって40歳過ぎまでサラリーマンを続けましたが、ちょうど前職に区切りが付けられたタイミングだったので、そろそろ種まきを始めようと決めたんです。

真鍋さん

―起業に向けて、準備する時間を確保するためにフリーランスになられたのでしょうか?

そうですね。種まきの時間を確保すること、それから退路を断つという意味合いもありました。

真鍋さん

―でも、週5日で常駐していると時間を確保するのが難しくないでしょうか?

確かに出勤数で見ればサラリーマンと同じですよね(笑)。でも、やっぱり時間は作りやすいですよ。

真鍋さん

―社員ではないことが大きな違いでしょうか?

はい。ありがたいことに、フットワークを軽くできるような契約にさせてもらっているので。1社は時間ではなくパフォーマンスでお金を頂き、もう1社は完全に時給制です。サラリーマン時代よりも圧倒的に時間のコントロールがしやすくなりました。

真鍋さん


―そうなんですね。時間以外にもメリットはありますか?

人との出会いが増えました。3社に携わっているので単純にいろいろな人と話す機会が多いですし、しかも2社は常駐、1社もスポット案件ではなく一緒にサービスを育てていく役割なので、コミュニケーションの量も普通のフリーランスよりは多いのかもしれません。新しいサービスを作るには、いろいろな考え方を吸収したり、アイデアをぶつけてみたりすることが大切だと思うので、僕にとっては非常に良い環境だと思います。

真鍋さん

―逆にフリーランスの難しさはありますか? 仕事の不安定さから、収入面で悩んでいる方や、逆に仕事を入れすぎてしまって疲弊しているフリーランスの方も多いとお聞きしています。

やはり常駐なので、ある程度は安定した収入が見込めるのは大きいです。ただ、半年先ぐらいまでは見えますが、1年先はどうなっているのかわからないので、そこはきちんと見通しを立てていく必要がありますよね。僕の場合は起業が大きな目標なので、ただ目先の収入を最大化させればいいというわけじゃない。バランスの取り方は今も模索しているところです。

真鍋さん




家族を守りながらチャレンジを続けた結果、今の働き方にたどり着いた

―真鍋さんのような働き方は、フリーランスで働くクリエイターの新しいスタンダードになり得ると思うのですが、どうやって今の働き方を作っていったのでしょうか?

僕は27歳で結婚して、今は子どもが3人います。それでも、ドーンと起業する人もいると思いますが、僕の場合は無茶をせずに、家族を守りながら堅実にキャリアを積んできたという感覚があります。リスクを減らしながらもやりたいことを諦めずに追求していった結果、自然にこの働き方が生まれたのだと思います。

真鍋さん

ーそれでも、リクルートからスタートアップに転職されたり、サラリーマンからフリーランスになったりと、端から見るとけっこうチャレンジされているように思います(笑)。そこに関しても、ご自身の中ではリスクヘッジをされてきたのでしょうか?

そうです。まず、安易な転職はしていません。目的や目標をしっかりと決めて、「こうなりたいから、ここにいくんだ」というストーリーを描いてキャリアを選択してきました。それから、キャリアって一度下げると上げるのが大変なので、待遇面も少しずつ上げていくことを考えていました。

真鍋さん

―それこそ、ストーリーや待遇面がしっかりしていれば、家族にも安心してもらえますよね。

ストーリーは大事です。これは家族が居ても居なくてもそうですね。面接で「なんで前職を辞めたんですか?」と聞かれたときに、具体的かつポジティブな理由を説明できるかどうか。自分自身が心の底から納得できる道を選ぶことが大切だと多います。

真鍋さん




会社員もフリーランスも、個人の腕が問われる時代になる

―真鍋さんの働き方は、家族を守りながら新しいことに挑戦したい人や、収入を安定させながら個人のクリエイティブ活動をやりたい人にも合っていると感じました。

今、本当にフリーランスが活躍できる場が増えていますよね。特にWebやIT人材は業務委託でもいいから欲しいという会社が業界問わず多いので、フリーランスのクリエイターにとってはチャンスだと思います。

真鍋さん

―ちなみに、どんな業種が求められていると思いますか?

WebデザイナーやWebエンジニアを求めているところは多いでしょうね。常駐フリーランスでもいいからWebサイトを制作・運用してほしいというニーズはさらに増えると思います。Web系の案件を回せるディレクターも人気です。

真鍋さん

―クリエイターがフリーランスとして活躍し続けるために大切なことは何だと思いますか?

やはり、目的や目標を持つことだと思います。サラリーマンも同じですが、どうなりたいのか、何がしたいのかをハッキリさせないと、ただ漫然と続けてしまったり、判断基準がブレてしまったりと、あまり良いことはありません。半年、1年、3年と定期的にマイルストーンを置いて振り返り、やりたかったことが実現できているのかを考えるのが大事ではないでしょうか。

その上で、フリーランスは個人の腕一本で勝負する職業です。なので、腕を磨き続けられる場所や働き方を作っていくことが大切だと思います。

真鍋さん


―それこそ、ただ漫然と仕事をこなすのではなく、目標意識を持って取り組む必要があるということですね?

ただ、これからは年功序列も終身雇用もなくなり、正社員だからといって安定が保証される時代ではなくなってくると思うんです。特にクリエイターは、サラリーマンだろうとフリーランスだろうと個人の腕が問われる時代に変わっていくのではないでしょうか。

そう考えると、フリーで勝負する自信と覚悟がある人は早めにフリーになった方がいいし、もし今いる会社で漫然と仕事をしているなら、早めにフリーになって筋トレをしたほうがいいと、個人的には思います(笑)。

真鍋さん

―真鍋さんのようにキャリアのある方でも、今でも腕を磨けている感覚はありますか?

40歳を過ぎると、さすがにこれまでの経験を生かしてパフォーマンスを出している部分が大きいです。ただその中でも、当時うまくいかなかったことを組み立て直して実践したり、やり方をバージョンアップさせて解像度を上げたりしているので、意識の持ちようで鍛え続けることはできると思いますよ。

真鍋さん

―貴重なお話をありがとうございます。ちなみにどんなサービスを構想しているのか、話せる範囲で教えていただけませんか?

インターネットは時間と距離、収入等の格差や不平等をなくすことができるツールだと思うんです。僕は愛媛出身なのですが、地元には仕事も娯楽も多くありません。でも、インターネットがあれば都会に出なくても、都会と同じように暮らすことができるかもしれない。距離や収入といった障壁をなくし、どこに住んでいても地域間格差を感じずに暮らせるようなサービスを作りたいと思っています。

真鍋さん

―ありがとうございます!今のお話を伺って、新しいサービスを作りたい人や起業したい人はもちろん、たとえば作品を作りたい人など何か大きな夢があるクリエイターにとって、真鍋さんの働き方はロールモデルになるのではないかと思いました。本日はどうもありがとうございました!

(了)

取材/文
松山 響
撮影
上岡 伸輔
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