「CREATIVE × PURPOSE」イベントレポート
クリエイティブから見た”パーパス”とは

2020年8月21日、エスエムオー株式会社と株式会社たき工房が主催するウェビナー(Webセミナー)「CREATIVE × PURPOSE」が開催されました。

新型コロナウィルスの影響で不透明な時代に突入し、企業や組織がかつてないほど自身の存在を問われている昨今、パーパス・ブランディングについて正しい理解を啓蒙するため、両社が共同で発行したタブロイド誌「TOKYO 2020」に収録されたテーマを深堀りする趣旨で行われたのです。

誌面にも登場する、クリエイティブ・ディレクター/コピーライターの鈴木武人氏がゲスト登壇し、両社のコンサルタント、デザイナー陣とのトークセッションが繰り広げられました。


コロナ禍で問われる真のブランディング

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鈴木氏(左)と青山氏(右)

今回のセミナーを主催したのは、ブランディングを専門とするコンサルティングファームの「SMO」とデザインエージェンシーの「たき工房」です。両社からの3名に、ゲストの鈴木氏を加えた4名がスピーカーとして登壇しました。

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竹嶋氏(左)と木村氏(右)

<登壇者のご紹介>

鈴木 武人
株式会社タケト、 代表取締役/コピーライター/クリエイティブディレクター

竹嶋晋
株式会社たき工房 ビジネスパートナー部 執行役員 / ブランディングプランナー

木村高典
株式会社たき工房 ブランドデザイン部 部長/クリエイティブディレクター / ブランドアナリスト

青山永
エスエムオー株式会社 COO


SMOの青山氏が2014年頃パーパスの重要性について語っていた内容に、たき工房の竹嶋氏が大きく共鳴したところから関係が始まり、今回の「TOKYO 2020」共同制作、そしてセミナーの共同開催が実現しました。

当日のセミナーは、SMO広報である平原氏が司会役としてお題を提起し、登壇者がそれに答える形でトークセッションが進行されました。

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平原氏

司会から最初に投げかけられたのは、「最近、印象的だったパーパスの事例について」です。これに対し鈴木氏が挙げたのは、2020年前半に起きたマスク不足で、いち早くマスク製造を事業化したシャープの事例でした。

鈴木氏は、「シャープの場合、パーパスではなく“経営理念”ですが…」と前置きした上で、「今回シャープは圧倒的なスピードでマスク製造を事業化しましたが、その原点にあるのが『誠意と創意』という“経営信条”。これが企業の根底にどっしりと構えられているから、実現できたのだと思います」と話しました。

当時、シャープの社長が社員に語ったという、「コロナ禍で事業を取り巻く環境は厳しくなっているが、これまで通り経営理念に沿い、新たな商品やサービスの創出にチャレンジしよう」というメッセージを併せて紹介し、「経営理念からブレずに、どんな逆境でも前を向き、企業としてひとつの方向に向かっていく。哲学を持っている企業の強さに改めて驚きました」と、感嘆していました。


パーパス策定は、ひとつの答えを見つけ、生きた言葉にする作業

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続いて、現在コピーライターとして企業のパーパス策定に関わっている鈴木氏に向けて、「パーパス策定に関わる仕事について、最初どのように感じていたか?」という質問が投げかけられ、鈴木氏は「戸惑いや不安があった」としつつも、役に立てるかもしれないと思った点について、以下のようにポイントを挙げました。

「策定自体は100%、企業の中で行われる作業ですが、パーパスは社内外に発信していくもの。定着させるときに必要な客観的な視点という点で役に立てるのかもしれません。また、既存の“企業理念”は神棚に祀(まつ)って拝むような、聖域の言葉のイメージです。それに対してパーパスは、定めるだけでなく使っていく言葉です。今の時代の生きた言葉を作るにはコピーライターのスキルが活かせるのではと思います」

また、これに関連して、鈴木氏にパーパス策定を依頼した青山氏が、その意図について説明し、「パーパスは、企業の本質を表す従来の“企業理念”や“ミッション”などより、もっとシンプルな概念です。シンプルさを表現するには、文言が洗練されていて共感されることが大切で、そこにコピーライティングの技術が必要なのです。パーパスというものが、よりクリエイティブを求めているのはそういう背景であり、武人さん(鈴木氏)にお声がけした理由です」と述べました。

この後、たき工房デザイナーの木村氏からの質問により、話題は「TOKYO 2020」の中の見出しにもなった、鈴木氏の「パーパスのコピーライティングは数学的だ」という印象的な言葉の意味に及びます。

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木村氏が、「話を聞いてもなんのことか理解できなくて、本当に数式にしてみたりしたけれどわからなかった」というのに対し、鈴木氏はこの言葉の真意を、以下のように説明しました。

「新しく策定するパーパスは、まだ言葉にはなっていないけれど、企業の中にはす でに存在しているのです。つまり、答えは企業そのものの中にあるというこ と。僕らがすることは、実態の中から一番核心の部分を、最も純粋な形で取り出 し、それを言語化すること。僕の感覚では、遠くに見えているパーパスの実体に向かって、うまく言葉を当てはめながら答えに辿り着いていく作業なのです。あたかも 数式を整理しながら、たったひとつの答えを見つけるように。それがパーパス・ラ イティングであり、表現の答えが無数にある広告との違いだと考えています」


パーパス策定で企業価値を「見える化」するのがクリエイティブの力

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後半は今回のセミナーの本論に迫っていきました。まず話されたのは、パーパス策定におけるクリエイティブの役割についてです。

鈴木氏は、広告クリエイティブとパーパス策定の共通点は「見える化」であると表現しました。

「パーパスは、定めるだけでなく使う言葉です。使われるためには、言葉によって 中身が誰にでも見えていなければならない。つまり、見える化させないといけない のです。それは、広告において、商品や企業の価値を、世の中にどう役立つのか、どう今ま でと違うのかなどと見える化させる作業と同様だと考えます」

ここで最新の「パーパスの見える化事例」として紹介されたのはソニーが去年新しく策定した、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」です。

超カリスマ企業であるソニーの価値のすべてが、この短い文章に集約されていると、鈴木氏は言いました。

「特に注目したのは“満たす”という言葉です。普通に考えれば“感動を提供する”で 完結できるところ、敢えて“満たす”という言葉を使っている。スケール感を表現し ているように感じるし、「心の満足」とも読み取れる。ソニーが提供する感動レベルの高さ を自分たちのハードルとして設定している、高い志が見える化されています」

ここでさらに、木村氏から「パーパスは長期的な視野で考えているはずだが、策定するときに、社会的な環境の変化や変化への対応などは考慮しているか?」という質問があり、これについては青山氏が以下のように回答しました。

「パーパスは、強み・情熱・ニーズの3要素で構成されています。変化は外的要因、ニーズの部分です。プランニングのワークをする中で変化を見立て、エッセンスの中に入れますが、さらに変化することはあります。ニーズが変化すれば強みと情熱が合わさるところにブレが生じるので、そうなったときはパーパスを策定し直さなければなりません。パーパスはブレない普遍的なものではありますが、一方で変えてはいけないものではありません。ソニーが昨年パーパスを再設定したのも、時代の変化によるものと言えるのでしょう」


パーパス定着のための「自分ごと化」まで設計する

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本セミナー中、青山氏が「パーパスは作るだけでなく、社員の人たちがきちんと理解して、心理と行動に結びつけ、使えるものに浸透させていくことが必要」と説き、「作る作業=ディスカバリー」「浸透=ムーブメント」と表現しました。

この、「パーパスの定着・浸透」におけるクリエイティブの役割について聞かれた鈴木氏は、ユニクロ柳井社長の「経営は経営者がするのではなくて、社員がすべきだ」という言葉を引用。ひとりひとりが労働者ではなく経営者と思って仕事をすればパフォーマンスはまったく違ってくると意訳した上で、社員たちが経営者の想いを共有するツールとしてパーパスが有効であると言及しました。

「経営者の想いを共有するのは、社員たちが自分ごと化するということです。ひとりひとりの自分ごと化を狙っていくのは、広告クリエイティブをする上でも重要な要素。 そこが似たような領域なのでお役に立てると思います」と話し、策定して終わりで はなく、作ったパーパスをどう定着させていくのかというプラン作成も同時に行っ ていることに触れていました。


パーパスの本質は、企業固有の強みの言語化

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本編終了後は「カジュアル・セッション」として質疑応答が実施され、限られた時間の中、2つの質問が紹介されました。

ひとつめは、「パーパスを策定する上で、言葉の長さはどれくらい意識すべき?」という問いです。これについては、まず鈴木氏が以下のように回答しました。

「長さはそれほど大きな問題ではありませんが、社員の人が自分ごと化でき、生きた 言葉として機能させるという面から言えば、短い言葉の方がハンドリングしやすい と言えます。ただ、その企業のたったひとつの言葉を形にするのが第一優先です。 企業固有の強みを言葉として定着させるのが、最も大事なことであると考えます」

また、青山氏も「パーパスは社内外に共通して発信していくものなので、背景や暗黙の前提がないような文章でないと使い物にならない。一方で、その会社らしい独特な言い回し、特徴的な単語などを使うのも重要だと思っています。内部の人たちに引っかかりを持たせ、自分ごと化させるためには、独特な言葉づかいが有効なのです」と、パーパス策定時のこだわりを見せました。

さらに木村氏は、「パーパスという答えを導きつつ、社員の自立的な行動を促すには、解釈の余地があっても良いのではないかと個人的には考えています。コアになるものだけ掴んでおいて、ひとりひとりがパーパスの意味を考えて動けるようにするには、短い言葉で良いのかもしれないですね」と、デザイナーらしい視点での発言を加えていました。

もうひとつの質問、「パーパスが“使われた”事例」については、コロナ禍の中、教育という分野であるサービスを無料解放する取り組みを行った「進研ゼミ」の名前が挙がりました。

事例を交えながら、パーパス・ブランディングの本質と、そこにクリエイティブが関わる意義について話された本セミナーですが、最後は青山氏が、「SMOのブログに、海外の事例を含めたくさんシェアしているので、読んでみてください」と締めくくりました。

混沌とする時代に、パーパス・ブランディングによって今いちど企業価値を見つめ直し、時代に合わせた方向性を見出していきたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

【SMOのブログはこちら】
https://www.smo-inc.com/blog/

ライター
向井 雅代