2019年10月27日、東京銀座のD2Cホールでデザインイベント「Design Cross 2019」が開催されました。
「デザインとは何か?」「デザイナーの仕事とは何か?」の定義がどんどん複雑化している時代。これから先、デザイナーには何が求められ、デザイナーは何に取り組むべきなのでしょうか。
そのヒントを探るべく企画されたのが当イベント。主にtoC領域を軸にビジネスを展開している様々な分野の事業会社が集結し、各社クリエイティブ領域のキーマン10名によるトークセッションが行われました。
開催のきっかけは、フリーランスWEBデザイナーへの「死の宣告」?
今回のイベント開催に際し、主催者であるConnective(コネクティブ)の渡邊浩樹さんが、イベントに込めた熱い思いをnoteで発信していました。
note|「Design Cross」開催に至った思いをつらつらと!
数年前、「フリーランスWEBデザイナーの死」を予言する記事を目にし、フリーランスとして活動する自身の将来に不安を感じたという渡邊さん。
それから4年以上が経ち、フリーランスWEBデザイナーの仕事は今のところなくなっていません。
ただ、「デザイン」の定義や解釈は確実に拡がり続け、デザイナーに求められることは、「最終的にアウトプットするモノをきれいに形作ること」だけではなくなりました。
今、デザイナーに求められるのは、「多くのプロセスにかかわることで、理解を深め、使う人にとって必要な情報や機能を選択でき、それを補う又はじゃましないデザイン」ができること。そのためには、目標を達成するための全ての制作プロセスに関わることが大切です。
しかし、現状ではフリーランスWEBデザイナーが様々な制作プロセスに関われる機会は多くありません。
このままでは、フリーランスの人たちは時代が求める「デザイン」の経験を蓄積することが難しく、まさに「死」への階段を一歩ずつ進むことになるんじゃないか?
このような危機感を抱いた渡邊さんは、「せめて、そういった働き方をしているデザイナーのリアルな話から学びを得て、少しずつ取り入れていきたい」と考えたそうです。
そして、目標を達成するための制作プロセス全体に関わる方法。
その一つの回答を持っている人たちこそが、事業会社で働くインハウスデザイナーでした。
「このイベントはインハウスデザイナーのためのものではありません」と渡邊さんが明言しているように、決してインハウスの人にしか関係ない話ではなく、インハウスを積極的に推奨するものでもありません。
プロセス全体に関わって人の心を動かし、行動を促したいと考える全てのデザイナーのために。考えるきっかけをインハウスの人たちから学ぼうというのが、今回のイベントの主旨ではないかと思います。
この渡邊さんの想いは、私たちメディアの、事業会社、受託制作会社、フリーランスの垣根を超えた、クリエイターの新しい未来を創りたいという想いと重なる部分があります。
登壇者10名、約8時間にも及んだ濃密なイベントの全貌はここではとても伝えきれないのですが、今回はその中でも特に印象に残った「デザイナーに求められる力」についてご紹介したいと思います。
インハウスデザイナーに求められる2つの力
トークセッションに登壇したのは、こちらの10名。
- 株式会社スマイルズ クリエイティブディレクター 木本梨絵さん
- 株式会社ピースオブケイク デザイナー 小谷麻美さん
- 株式会社中川政七商店 デザイナー 榎本雄さん
- 株式会社エウレカ UI/UX Expert 渡辺智保子さん
- 株式会社BAKE ストアデザイン部長 勝部竜太朗さん
- 株式会社ラブグラフ Co-founder & CCO 村田あつみさん
- 株式会社CRAZY クリエイティブディレクター 林隆三さん
- オイシックス・ラ・大地株式会社 クリエイティブマネージャー 寺内能之さん
- 株式会社ツクルバ creative室長 柴田紘之さん
- 株式会社FiNC Technologies CCO 小出誠也さん
今勢いに乗っている事業会社で働く社員が集結したこともあり、日曜の昼にもかかわらず開始前から大勢の参加者で会場は賑わっていました。
10名それぞれが、ご自身の経験を交えながら、サービスを成長させるためにデザイナーに求められることや、デザインとの向き合い方について話をしてくれましたが、その中でもツクルバの柴田さんによる「インハウスデザイナーに求められる2つの力」が非常にわかりやすく、他の登壇者の意見と共通するものがありました。
また、これまでに前述してきたことを踏まえて、やや乱暴に言えば、この「インハウスデザイナー」の部分は「これからのデザイナー」と置き換えて考えることもできると思います。
インハウス(これからの)デザイナーに求められる能力
(1)相手に合わせた言語でデザインを説明したり、語れるチカラ
(2)領域を越境しながら、何でもやる!やれるチカラ
(1)相手に合わせた言語でデザインを説明したり、語れるチカラ
「たとえば、会社の名刺を1枚200円かかる仕様で提案し、相手から“高くない?”と言われたとします。その時、デザイナーが“50円に収まるようにします”と答えるか、“いや、この名刺は会社にとってこんな役割があって、こう機能します。それを達成するには、この仕様が最適だから200円かかるんです”と答えるのでは大きく違うと思います」
ツクルバ柴田さんがこう話すように、なぜこのアウトプットなのか、なぜこの金額がかかるのかといった問いを、相手が理解できるような言葉で説明できないといけません。
逆に相手に合わせた言語化ができないと、提案は却下され、本来の目的を果たさない低クオリティのアウトプットが完成してしまう可能性が高くなります。
特にインハウスのように、制作プロセスのあらゆる領域に関わるデザイナーの場合、提案をしたり、協力を仰ぐ相手がクリエイティブ領域ではない部署のメンバーというケースも多々あります。
バックグラウンドも専門領域も異なる人たちと、如何にして共通の認識を作っていけるか。
スマイルズで新規事業の立ち上げに携わる木本さんは、「共通のものさし」を作ることが大事だと言います。
たとえば、「YELLOW」というカレー居酒屋を新規オープンさせる際、彼女は「イギリス人投資家のEwanと日本人音楽家のShiroがインドで出会った」という架空のストーリーを事細かく作りました。
すると、メンバーで新しいサービスを考える時に「Ewan君だったらこうするよね」という会話が生まれたり、食器などの選定をする時に「このデザインはShiroっぽいよね」といった具合に、ストーリーが「共通のものさし」となり、一貫性のあるブランドを創り上げていくことができたそうです。
これはピースオブケイクが運営するnoteも同じ。
「noteさん」という架空のキャラクター像を細かく設定することで、「noteさんだったらこうする」という考えに基づいてサービスやデザインが作られていくと、同社デザイナーの小谷さんは話してくれました。
このような能力は、受託制作会社やフリーランスの立場の人であっても、今後ますます重宝されるものではないでしょうか。「ひとつの事業やサービスを成長させる」という大きな目標を達成するためには、周りの人たちを巻き込んで味方につけることが欠かせません。
その先導を仕切ることがデザイナーに求められている。あるいは、その先導を仕切るチャンスがデザイナーにやってきたという見方もできると思います。
(2)領域を越境しながら、何でもやる!やれるチカラ
事業会社も様々なので一概には言えませんが、WEBデザイナーという肩書きであってもWEBデザイン以外の領域に携わるケースが多いのが、「インハウスWEBデザイナー」の大きな特徴かもしれません。
実際、多くの登壇者が口を揃えて、幅広い領域に携わることのやりがいやメリット、同時に初期のとまどいや大変さなどを語っていました。
ツクルバ柴田さんは、「業務範囲が広く、スピードが求められる。自分のスキルや領域を超えて主体的にチャレンジする力が必要」だと言います。
エウレカの渡辺さんも、「デザイナーの守備範囲は広い。デザインだけでなく、プロジェクトオーナーとともに企画から考えることも求められていた」と、事業やサービスの上流からデザインで貢献することが必要とされていたと振り返ります。
スマイルズ木本さんのデザイン領域は、「店舗コンセプト、ストーリー、撮影ディレクション、レシートデザイン、メニューデザイン、食器のセレクト、皿のデザイン、試食会、メニュー考案、内装デザイン、ディスプレイ、Tシャツ…etc」。
もはや、「ものづくりに関すること、全部」と言ってもいいほど膨大ですよね。
このように、ひとつの事業やサービスに携わる領域が広がれば、当然のことながらデザイナーに求められる業務範囲も広がっていくのです。
WEBデザインだけをひたすら突き詰めたい人にとっては、あまり面白くない話かもしれません。
でも、肯定的な捉え方をすれば、デザインの力で貢献できる領域が確実に増えているということですし、それだけ企業にとってデザインの価値が高まっているということ。
プロセス全体に関わって人の心を動かし、行動を促したいと考えるデザイナーにとっては、自分次第で今までよりもずっと大きなチャンスと可能性を手にすることができるのではないでしょうか。
じゃあ、具体的にデザイナーは何に取り組めばいいの?
もしかすると、インハウスデザイナーになることは一つの手かもしれません。でも、それよりも大事なことがたくさんあるのだと、登壇した皆さんが教えてくれました。
たとえば、オイシックス・ラ・大地の寺内さんは、デザイナーとしての価値を高めるためには「自分で考えることを意識し、デザイン以外の知識、スキルなどで自分の価値を高めること」が不可欠だと述べます。
一方、デザインされていないものは世の中にないので、電車の広告などあらゆるものに対して「自分だったらどうデザインするか?」を考えて引き出しを増やすことも大切だと言います。
エウレカ渡辺さんは、「スピード」にこだわっているのが印象的でした。
なぜなら、「デザインは仮説」だから。
アウトプットしたものを検証し、ブラッシュアップすることが事業・サービスの成長につながるので、アウトプットを形にするスピードが速いほどサービスの推進力をパワーアップさせるのだと言います。
作って終わりではなく、その先の成長や改善を前提にデザインを捉えているところが、インハウスデザイナーだからこそ培われた視点と言えるかもしれません。
その他にも、登壇者の体験談に基づく等身大の学びや、ハッとさせられる気づきを大量にインプットすることができた今回のイベント。
主催の渡邊さんが書いていた「あまりにも知らないことが多かった。もっと早く彼らの話を聞ける機会があればよかった」という言葉のとおり、事業会社の第一線で活躍するデザイナーの皆さんの話はやっぱり刺激的で、とっても濃密な時間を過ごせました。
なお、当イベントで繰り広げられたトークセッション(10セッション中、9セッション)が、期間限定で動画配信されています。
非常に貴重なトークセッションが盛りだくさんですので、興味のある方はぜひ下記よりお申込みされることをオススメします!