「高度デザイン人材」に求められるスキルとは?

2018年5月に経済産業省と特許庁が公表した「デザイン経営」宣言。

政府が「デザイン経営」宣言を打ち出した社会背景や基本的な考え方については、こちらの記事でまとめさせていただきましたが、今回はその中の施策の一つである「高度デザイン人材の育成」を紐解いてみたいと思います。

高度デザイン人材って?デザイナーに関係あるの?

高度デザイン人材とはひとことで言うと、「あるべき未来を構想し、事業課題を創造的に解決できる人材」のこと。この「デザイン人材」とは狭義のデザインスキル保持者ではなく、デザインとビジネス、テクノロジーのスキルが結合した人材のことを指しています。

あらゆる製品・事業のサービス化、デジタル化が急速に進むグローバル市場で日本の産業が強い国際競争力を発揮するためには、この「高度デザイン人材」の力が欠かせませんが、需要に対して供給が圧倒的に足りていないのが現状

そこで「高度デザイン人材ってどんな人?」という具体像を定めること、必要とされるマインドやスキル、カリキュラムなどをガイドラインとしてまとめることが、事業の意義と狙いとされています。

この事業は採択を受けた株式会社コンセントと経済産業省の「高度デザイン人材育成研究会」が主導で進めており、2019年2月までに研究会が3回開催され、すでに大枠の方針が固まっています。

今回は第3回の資料を紐解いてみたいと思いますが、よく読んでみるとデザイナーにも関係深い提言がされていることがわかりました。



高度デザイン人材に求められる能力・資質

では、具体的に高度デザイン人材にはどのような能力や資質が求められるのでしょうか?

研究会では、必要とされる能力分野について下記の表にまとめています。



デザイン能力は「スキル」「哲学」「アート」の3分野に分かれる

デザイナーにとってまず気になるのは、やはりデザインの分野。ここではさらに「スキル」「哲学」「アート」に能力が細かく分類されています。

「スキル」とは、言わずもがなデザイン能力のこと。グラフィックデザイン、Webデザイン、プロダクトデザインなど分野ごとに求められる専門的な実現能力を指しています。

その中でも、

「これからはAI、IoTなどを活用したUXが広く求められることが想定され、テクノロジーを積極的に活用したデザインスキルがより求められる」

「ビジネスに求められるUXの構築のために実施する調査には、認知心理学の知見や文化人類学の調査方法(エスノグラフィ)なども活用される

と、テクノロジー活用と学術的な調査・分析能力の重要性を提言していることがポイントと言えるかもしれません。

「哲学」とは、デザインアプローチをどのように捉えるかという考え方のこと。さらに、そのアプローチを言語化する能力が必要とされています。

「アート」とは、個々人の持つ主観や想い、視点をもとに問いを発する能力、そして、その問いを具体的な形にする能力のこと。イノベーションや新しいビジョンを生み出すためには、個人から発信されるアートの力が欠かせないと提言されているのです。

このように、「デザイン」の分野だけ見ても、単純なデザインスキルだけでなく、デザインアプローチに関する知識やその言語化能力、個人の主観や主体性による問題提起を発する力、具体化する能力などが重要とされていることがわかります。

加えて、高度デザイン人材に求められる能力に挙げられるのが「ビジネス」と「リーダーシップ」。ビジネスでデザイン能力を発揮するための基本的なビジネス理解やコミュニケーション能力、マネジメント能力、プロジェクトを主体的に進める推進力や完遂する力などが必要とされています。

すでにデザイナーとして仕事をしている方は、デザインの「スキル」については大なり小なり自信があると思います。

では、他の分野の能力についてはどうでしょうか?今後も社会的なニーズが増えるであろう「高度デザイン人材」を目指す場合は、今の自分に足りていない分野の能力を磨くことが得策かもしれません。

何を極めるのか?で5つの類型に分かれる

とはいえ、同研究会は全ての領域を極めたスーパーマンになることを推奨しているわけではありません。

デザイン、リーダーシップ、ビジネススキルを総合的に高めつつ、何を極めるのかによってキャリアパスを5つの類型に分けることができるといいます。それが下記の図です。


たとえば、リーダーシップやビジネススキルを高めながら、デザイン領域を極める場合は、サービスデザイナー/デザインエンジニアというキャリアパスが描けます。

高度なデザイン能力を持ちながら、リーダーシップとビジネススキルを極めると、ビジョンデザイナー/アントレプレナーというキャリアパスが描けます。

同研究会では5つの類型的イメージを詳しく紹介しているので、気になる方は下記をご参考ください。


海外の育成プログラムを参考に、カリキュラム案を提言

それでは、高度デザイン人材に近づくためには、一体何を学べばいいのでしょうか?

研究会が提示しているのは、それぞれの能力分野に応じたカリキュラム案。スタンフォード大学やミラノ工科大学など海外の育成プログラムなども参考にしながら、学ぶべき分野と求められる能力・マインドセットを定義しています。


たとえば「アート」の分野であれば、まだ社会や企業で顕在化していない課題を発見して具現化する「スペキュラティブデザイン」や、批判的思考を行う「クリティカル・シンキング」の学びと実践、デザインの本質を見通すための「アート教育」などがカリキュラムとして提案されています。

一方、「リーダーシップ」の分野では、デザイナー自身が当事者として問題意識を持って課題解決に関わるための「アントレプレナーシップ」、また成果にコミットするための「プロフェッショナリズム」の双方を身につけ実践するためのカリキュラムが提案されています。

今後、同研究会では方針に基づく具体的なカリキュラム策定、啓発に向けたイベント開催などを行なっていくそうです。

まとめ

「高度デザイン人材」の定義や人物像に共通して言えることは、デザインの社会的なニーズが急速に高まると同時に、その領域自体が大きく拡がっているということ。

これまで、もしかするとビジネス系とクリエイティブ系の人材の間には境界のようなものがあったかもしれません。しかし、今後は営業や事業開発をする人、あるいは経営者であってもクリエイティブに関する理解が必要であり、逆にクリエイターもビジネスや経営者に関する理解が必要とされる時代がやってきたとも言えます。

クリエイターに期待されることは高度化していますが、クリエイターが活躍できる領域も確実に拡がりつつある今の時代。未来を見据えて、「高度デザイン人材」で定義される能力やスキルの習得に勤しむのも一手かもしれません。