カスタマーサクセスとは、サブスクリプション(定期購入)型ビジネスを展開する企業を中心に行われている仕事です。従来の「カスタマーサポート」が顧客からの問い合わせやクレーム・要望に対応する受動的な業務であるのに対し、「カスタマーサクセス」は顧客体験を成功に導く、能動的なアプローチといえます。
カスタマーサクセスの考えは、買い切り型のビジネスにとっても必要な仕事ですが、サービスの継続的な利用が重要となる事業においてはとくに欠かせません。たとえばAmazonプライム・ビデオやNetflixなどの動画定額制配信サービス、KINTOの定額制自動車レンタルサービスなどが挙げられます。
カスタマーサクセスの概念は2000年初頭に海外のSaaS業界で提唱され、その後、日本でも注目され始めました。今回はカスタマーサクセスチームが実際にどのような仕事をしているのか、4社の具体例をもとにご紹介します。
Wantedlyのカスタマーサクセス例
Wantedly株式会社は「シゴトでココロオドルひとをふやす」をミッションに、ビジネスSNSサービスを展開している企業です。求職者側も企業側もチャット形式で気軽にやりとりをしたり、企業訪問をする・されることができたりと、本格的な選考の前につながりをもてるのが、サービスの特徴です。
企業の魅力を伝えるべく、Wantedlyでは採用募集記事や社員インタビュー記事などさまざまな切り口の記事を掲載しています。カスタマーサクセスチームの仕事の例として2つご紹介します。
オンボーディングの一歩をサポート
採用募集記事の書き方、写真の撮り方、求職者へのスカウトの送り方など企業へのサポートは多岐にわたります。また、Wantedlyは「オンボーディング」と呼ばれる顧客がサービスの利用に慣れるまでに必要なステップの一歩一歩をサポートしています。
さらに相談会やセミナーの定期的な開催もカスタマーサクセスチームの業務です。「導入して終わり」ではないサービスに、こうしたサポート体制が不可欠です。
ヘルススコアの活用
ヘルススコアとは、文字通り顧客の「健康状態」を確認するツールです。カスタマーサクセスチームは、契約更新がされなかったときに初めて手を打つのではなく、日頃から顧客の利用状況を把握してアクションを起こすためにヘルスコアを設計・運用しています。
各々の顧客について「募集ページを公開しているか?」「企業情報の入力は進んでいるか?」といったさまざまな観点からスコアを見ています。
企業の採用担当者が抱えているSOSや要望を、進んで拾いにいくことはWantedlyの事業成長に不可欠なものでしょう。
SmartHRのカスタマーサクセス例
株式会社SmartHRは、雇用契約や入社手続き、年末調整といった労務をペーパーレスで完結できる電子サービスを提供しています。カスタマーサクセスチームの特徴をみていきましょう。
属人化を防ぐチーム体制
担当者の体調不良や配置転換があった際には、引継ぎのスムーズさが顧客体験を左右します。また、日頃からチーム内でナレッジ共有をしておくことも大切です。
SmartHRのカスタマーサクセスグループは、業務内容で分かれたユニットの中でさらにチーム体制になっています。こうすることで、ある人以外はその仕事が対応できないなどの属人化が避けられ、若手も育ちやすい環境をつくっています。
次のアクションに進みやすいオンボーディング定義
オンボーディングとは、顧客がサービスの利用に慣れるまでのステップを指します。しかしオンボーディングの定義を細かくしすぎると、次のアクションに導ける顧客が少なくなってしまいます。そのため、現在SmartHRではオンボーディングの定義を「従業員の情報登録が完了して、各従業員がログインすること」までとしています。
一時期はオンボーディングを代行していたこともありましたが、定義を見直した結果、顧客が自走できるようにプロダクトフィードバックを行うのもカスタマーサクセスグループの大切な業務だと判断したのです。
Slackのカスタマーサクセス例
Slackは、組織内外をつなぎ、オープンかつスピーディーなコミュニケーションを可能にしているビジネスコラボレーションハブです。運営元のSlack Technologies,Inkは150ヵ国以上に顧客をもち、日間アクティブユーザーは1,200万人を超えています。Slack社におけるカスタマーサクセス業務は、まさに事業の要です。詳しく解説します。
顧客の声を「聞く力」と「理解する力」
Slackでは、データ分析やAIの活用を通じて「マチュリティ(成熟度)スコア」を導入しています。ほかのアプリとの連携状況やメッセージの送信状況といったデータが、顧客の利用成熟度を図る手がかりになるのです。
また、顧客が必要としている価値を提供できているかどうかを測定するために行うのが、3つの軸で行う評価です。「導入」「成熟度」「感情」という観点でスコアリングすることで、顧客がどれくらいログインしているか、どれだけの機能を使っているか、Slackをどのくらい気に入っているかという評価ができます。これは全世界のカスタマーサクセスチームに共通する業務です。
価値の生み出し方を顧客とともに考える
またグローバルではチャンピオンズネットワーク、日本ではアンバサダーネットワークという成熟ユーザーのコミュニティづくりも行っています。導入成功事例の共有やフォーラムを開催することで、Slackに愛をもつユーザーと、サービスの価値をともに高めているといえるでしょう。
Salesforceのカスタマーサクセス例
カスタマーサクセスの概念を提唱し、日本にも広げたのが株式会社セールスフォース・ドットコムです。
企業と顧客をつなぐ顧客管理ソリューションを提供しており、営業をはじめとするすべての部署で顧客情報を一元的に共有できるシステムを扱っています。
目標ありきのサポート
サービスの導入後、SalesforceのCSM(カスタマーサクセスマネージャー)がまず行うのは、顧客の課題とゴールの明確化です。たとえば営業社員が新しい売上管理システムを使うとなると、ネックになりやすいのは継続利用です。管理されているように感じてしまうと、顧客体験は良いものになりません。
管理ではなく、その顧客企業がもっている課題とゴールをともに明確にして、システムでできることはシステムで解消すれば目標を達成できる、というアプローチでサポートをすることが重要な業務です。
サクセスマップを通じた伴走
「サクセスマップ」は、日本のカスタマーサクセスチームが考案したツールです。製品活用支援のフレームワークに基づき、目標、施策、戦略、そしてKPIへとブレークダウンするのが第一ステップです。ここから、運用ルールの定着化を図り、業務改善につなげるのが目的です。
顧客の課題に二人三脚で取り組む存在がカスタマーサクセスチームといえるでしょう。
全社でカスタマーサクセスの文化をつくることが不可欠
カスタマーサクセスに注力している企業の具体的な業務例をご紹介しました。どの企業にも共通しているのは、カスタマーサクセスは全社に必要な概念であるととらえていることです。
顧客の体験を成功に導くことが、事業の成長につながります。これからの企業に差し出されている重要なヒントといえるでしょう。