2020年10月12日、株式会社ビービット主催のオンラインセミナーが行われました。アフターデジタル 時代に企業が成長し続けるために大切な「UXチーム化」をテーマとした本セミナー。ビービットの藤井保文氏、佐藤駿氏が講師を務めました。
ビービットは、UX(顧客体験)の改善を通した事業の変革や運用などをサポートする企業。具体的にはUXデザインのコンサルティングと、「AI×行動データ」でユーザの「状況」を捉えるクラウドサービスUSERGRAMの導入・活用支援 を行い、アフターデジタル時代の企業成長を手助けするサービスを提供しています。
今回のテーマは、経営者やこれから起業を考えている方はもちろん、UXに携わるクリエイターの方々にとっても必見の内容です。
■講演者の紹介
藤井 保文氏
株式会社ビービット 東アジア営業責任者
1984年生まれ。東京大学大学院修了。上海・台北・東京を拠点に活動。国内外のUX思想を探究し、実践者として企業・政府へのアドバイザリーに取り組む。著作『アフターデジタル』シリーズは累計14万部を突破。AIやスマートシティ、メディアや文化の専門家とも意見を交わし、新しい人と社会の在り方を模索し続けている。
佐藤 駿氏
株式会社ビービット UXインテリジェンス事業部
プロダクトマーケティング担当
東京大学経済学部経済学科を卒業後、ビービット入社。コンサルタントとして、保険、メディア、ECなど様々な業界のUX向上 / 体験コンセプト立案のご支援を行った後、SaaSセールスとして、WEBサービスやECサイトなどを中心に、USERGRAM導入後まで含めた成果創出のご支援を実施。現在はプロダクトマーケティング担当として、アプリやデジタルサービス改善を支援するようなサービス開発に携わる。
https://www.bebit.co.jp/
これからの時代、なぜUX(顧客体験)が重要なのか
冒頭、藤井氏から「これからの時代、なぜUX(顧客体験)が重要なのか」について、お話しがありました。
まず「アフターデジタル」とは、端的に言えば「今までオフラインだった行動がオンライン化していく」ということ。電子マネーが普及し、UberEatsで食事を済ませるようになり、今までだと“リアルがメインでデジタルはおまけ”という構造から、オンライン でいつでも顧客やサービスに接することができるのが当たり前になってきています。「アフターデジタル」とは、“デジタルとリアルが融合していく時代” と表現することもできます。
アフターデジタル時代における重要なポイントは、「行動データがたくさん得られる時代であること」だと藤井氏は述べます。今まではユーザーの年齢や性別といった属性データしか得られなかったのですが、Webサイトの閲覧履歴などの行動データが得られるようになることで、顧客に商品・サービスをプロモーションする最適なタイミングや、そのタイミングにほしいコンテンツ、そのときにふさわしいコミュニケーション方法がわかるようになります。逆に言えば、行動データを活 かさずにただ商品やサービスを売っているだけでは、競合にどんどん差がつけられてしまう時代であるということです。
これからはユーザーになるべく寄り添い、高頻度に 体験を提供できるようなコミュニケーションを設計することが重要になります。同時に、「体験を提供する際にUXを工夫することの重要性も増してきている」と藤井氏は言います。なぜなら、UXの品質が高く なければユーザーに利用してもらえず、行動データがたまらず、最適なタイミング、最適なコンテンツ、最適なコミュニケーションでの価値提供ができなくなるからです。
続けて、藤井氏は「UXは一度デザインして終わりではなくて、アップデートしていくことが大切」であるとも説明しました。「変化のスピードが早い今の世の中、盤石だと思っていた部分が揺らいでくることも容易に起こります。これからは、いかにクイックに アップデートをかけられるかが重要になるため、サービスの作り方はもちろん、アップデートがしやすい組織体制を組んでおくことも欠かせません」と藤井氏。
加えて、「今まで以上に低コストで頻繁にUXのアップデートに取り組まないと、いずれはサービスを 盗まれ、似たようなサービスを作られて競合他社に負けてしまう可能性もあるのです」と述べ、サービスをアップデートし続けることで独自性や競争優位性が確保できることを強調しました。
このアップデート業務には、大きく二つの活動があるそうです。それは「UX(顧客体験)の改善活動」と、「新しい接点づくり」です。前者は文字通りですが、事業を拡大する際によく注目されるのは、後者の新しい接点づくりです。
例えば、今まで接点を持っていなかった領域に新規事業を創出して、新しい顧客との接点を作ることなどが挙げられます。ただ、それだけだとすぐに真似されて競合に顧客を奪われてしまうことも。ここで大事になるのが、UXのアップデート業務で現状の顧客接点から顧客データをしっかり取得し、それをベースにUXをとにかく改善し続けることで、「新しい接点」との相乗効果を生みだすことだと藤井氏は言います。
このようなことから、UXをアップデートし続けるための、「UXチーム」の存在が非常に重要になるのです。
「UXチーム」の継続的改善が、企業のグロースにつながる
藤井氏は、UXをアップデートし続ける能力と、ユーザーを理解するUXチームが、これからの時代に求められる要素であり、「不自由を発見し、UXの絶えざる改善と新たなUXを構築するチームが、企業成長の鍵を握る」と言います。その中でも大切な二つの業務について解説してくれました。
一つ目は「グロース業務」と呼ばれるもので、今ある商品・サービスの問題点を発見し、それを改善していくことや、一つひとつのユーザー体験を分析・理解して、体験を作っていく作業です。
二つ目は「コンセプトワーク」と呼ばれるもので、グロース業務の中で見えた問題点に対応していくことや、新たな提案や新しい事業を作ることです。
コンセプトワークは新規事業を作るという点で華やかな印象を持つかもしれませんが、成果を出すにはある程度の経験値が必要になります。これに対してグロース業務は地味な作業に感じるかもしれませんが、「例えば、小さい課題をユーザーの行動観察から見つけ出し、改善を繰り返すことで、ユーザーを理解する能力が高まっていき、それが新規事業創出の種になる」と藤井氏は言います。つまり、グロース業務を経験することで、コンセプトワークの能力がついてくるということです。
UXチームを結成したら、データやAIをフル活用し、成功パターンと失敗パターンの学習から「課題の発見」と「解決策の発想」につなげていきます。この繰り返しによって、企業のグロースが実現できるのです。
ここまでがセミナーの前半で、藤井氏の著作『アフターデジタル』を紹介しながら話を進めました。興味のある方はぜひ本著を読んでみてください。
UXアップデートのボトルネックを解決する「質的分析」とは?
後半の講演者である佐藤氏は、「一度サービスやプロダクトを作った後、顧客の課題を発見して継続的に改善し続けるという業務に関して、伸び悩んでしまうというお話をよく耳にします 」とUXアップデート業務における企業の課題をピックアップ。その原因は、「ずばりユーザー状況の理解がないがしろなまま企画・優先度付けに移行してしまうこと」だと述べます。多くの企業でユーザー数を増やすことはできても、1ユーザーあたりの収益(改善幅)を伸ばすことに関して壁を超えられないというのです。
ではなぜ、改善幅が伸び悩んでしまうのでしょうか? ビービットではグロース業務の原点にあたってその原因を解き明かしています。
そもそもグロース業務における理想の業務フローは、まず各接点で取得できたユーザーの行動データを分析し、伸び代やボトルネックを明らかにした上でアイデアを立案。そして、 そのアイデアの中で、実装工数や期間をもとに優先順位を付けて、優先度が高いものから実行していく。さらに 、実行した結果をまたデータ分析で振り返る。このサイクルを回すことが、グロース業務の理想の業務フローだと言われているそうです。
ただ、この業務フローが実際はなかなかうまくいかないというのが、まさに伸び悩みの原因だと佐藤氏は捉えています。グロース業務は数年前から日本でもいろいろな企業で採用されているものの、実は偏ったイメージで伝わっていることが非常に多いというのです。
例えば、「量的なデータをもとにとにかく実験する ことこそ正義だ」、あるいは「とにかく改善の数を積み重ねることこそ正義である」といったイメージです。「確かに、プロダクトの問題は量的なデータで定義できます。しかし、ユーザー状況への理解が十分でない状態で、次のアイデア立案に移っていくケースが多い」と佐藤氏は述べます。その結果、グロース業務を複数人で実施する中で、各人の課題や認識がずれてしまうなどの問題が起き、大きな改善幅をもたらすアイデアが生まれにくくなるというのです。
では、このような壁を乗り越えていくために、どのようなフローが必要になるのでしょうか。
佐藤氏は「実は非常にシンプルなもので、“分析”と一括りに捉えてきたフェーズを、二つに分けて実践すること」だと述べました。具体的には、「プロダクトの実態の分析」と「ユーザー状況理解」というフェーズに分けるのだそうです。
「プロダクトの実態の分析」は、いわゆる行動データを量的に扱って、なにが起きているのかを探っていくフェーズ。多くのケースでこのフェーズの後すぐにアイデア立案へと移ってしまうのですが、その前に「ユーザー状況理解」というフェーズを実践します。
例えば、「ユーザー調査」や「アンケート調査」といった調査手法が有効ですが、実際に調査を高頻度で行うのは難しいもの。そこで用いるのが、「行動データ」の質的な分析です。ユーザーの行動データを細かく分析し、「ユーザーはこのページでよく止まって しまう」「このページは15秒以上滞在されている」といったファクトをもとに改善を実施するのです。
さらに、この「ユーザー状況の理解」に関しては、企画者、データ分析者、あるいはエンジニアなど、様々なメンバーが集まって実施することを佐藤氏は勧めました。なぜなら、同じデータを様々な角度から捉え、解釈することによってユーザー理解がより深まるからです。
また、商品・サービスに携わるメンバー全員でユーザー像に対する共通理解を持つことで、その後の工程が効率的になるというメリットもあります。実際に「ユーザー状況理解」のフェーズを個人で取り組むケースと複数人で行うケースを比較すると、複数人で行うケースの方が大きな成果が出ることもわかっているのだと佐藤氏は述べました。
課題の定義と、具体的な解決策を示せる人材が必要
では、分析業務のフローを実際に遂行していく上で、どのようなスキルが必要なのでしょうか。
佐藤氏は、二つのスキルを取り上げて説明しました。
一つは、行動データからユーザー状況を捉え、解くべき課題を定義するスキルです。「行動データから“ユーザーはこういう迷いや悩みがあるよね”といった現状の状況を正確に捉え、なおかつ、どのような 改善を行うべきかという課題を定義する力が求められます」と佐藤氏。
二つ目は、具体的な改善案を立案していくスキルです。「例えば、ユーザーがこの情報に気づけていないから、気づいてもらえるようにしようという課題定義をしたとします。その課題に対して解決に導く具体的なアイデアや、具体的なデザイン、施策に落とし込んでいく力です」(佐藤氏)
UXをアップデートし続けるチームを作ろう
「これからはUXの重要度が増していき、ただUXをデザインするだけではなく、チームを組んでUXをアップデートし続けることが、企業の持続的な成長の鍵を握ります」と佐藤氏。
DX推進の領域で活躍される2人の熱意あるトークに圧倒されながら、あっという間にセミナーが終了しました。
今回のセミナーは、会社の成長が伸び悩んでいる経営者の方、これからサービスや事業を始める方にとって、非常に学びの多い時間になったと思います。また、日々UXに携わるクリエイターの方にとっても、UXをアップデートする方法やチームの重要性、必要なスキルについて確認することができたでしょう。さらに詳しく知りたい方は、ビービットのサービスや書籍『アフターデジタル』シリーズに目を通してみることをお勧めします。