クリエイターのなかには、フリーランスの仕事が軌道に乗るまで派遣と掛け持ちしている人もいるでしょう。夜間や土日など空いた時間を利用して、2足のわらじを履くダブルワーカーにとって、気になることといえば税金などの処理です。
今回は、所得税や住民税、社会保険や雇用保険の基本、ダブルワークの税金、保険への影響を解説します。ダブルワークに関連する現行制度や、改正情報もお伝えしますので参考にしてください。
ダブルワーカーが知っておきたい所得税と住民税の取り扱い
フリーランスとしての事業収入を、雑所得あるいは給与所得として受け取っている人もいるでしょう。ここでは派遣社員を続けながらダブルワークしているフリーランスに向けて、所得税と住民税の取り扱いを解説します。所得税は国に、個人住民税は地方税のひとつで住所地の市町村・都道府県に支払う税金です。
2カ所以上から給与を受け取っている場合、どちらを「主たる給与」「従たる給与」にするのかは自由に決められます。「主たる給与」を決定するのは「給与所得者の扶養親族申告書」の提出です。「給与所得者の扶養親族申告書」を提出した先から受け取る給与が、「主たる給与」だと知っておきましょう。
派遣でも確定申告が必要?所得税と確定申告
派遣社員として働いている場合、基本的には派遣会社が年末調整を行います。そのため自分で確定申告をする必要はありませんが、フリーランスとしてダブルワークをしている場合には注意が必要です。ダブルワークをしている派遣社員が、確定申告をするシチュエーションを次に紹介します。
- 派遣以外の仕事の所得が20万円を超える場合
- 12月の年末調整時に派遣会社との雇用関係がない場合
雇用契約のタイミングで派遣会社で年末調整ができない場合
このように、主たる給与以外の所得が年間20万円以下であれば、確定申告の必要はありません。ただし、同族会社の役員をしていて、資産の賃貸料などを受け取るといった、ほかの理由があれば確定申告は必要です。この「年間20万円以下」という取り決めは所得税のみで、住民税については申告が必要なので注意しましょう。年末調整を派遣会社でしてもらえない場合も、自分で確定申告をします。
なお、源泉徴収税額表の月額表には甲欄・乙欄が設けられています。甲欄が適用されるのは「主たる給与」の場合です。乙欄は、2カ所以上から給与の支払いを受けている人で、①ほかの給与の支払者に扶養控除等申告書を提出、②年末調整までに扶養控除等申告書を提出していない場合に適用されます。
派遣社員・フリーランスとして、2カ所以上から「給与」収入がある場合に参考にしてみてください。甲欄より乙欄、つまり「従たる給与」の税率がより高めなのがポイントです。雑所得で事業収入を計上している場合は、給与所得などほかの所得金額と合計して総所得金額を求めてから、納める税額を計算します。
個人住民税の申告
地方税のなかでも、身近な税が住民税です。派遣とフリーランスのダブルワークをしていて、確定申告をすませた場合は住民税の申告は必要ありません。ただし、給与以外の所得金額の合計が20万円以下で確定申告をしなかった人は、住民税の申告が必要になります。
市区町村(都道府県)に住所をおいている個人が負担する税は、個人住民税と呼ばれています。個人住民税には「市町村民税」と「道府県民税」があり、市町村が合わせて徴収するため、問い合わせ先は市町村の窓口です。
ダブルワーカーの社会保険(厚生年金・健康保険)の取り扱い
派遣社員とフリーランスのダブルワークをしている人に向けて、社会保険(厚生年金・健康保険)の取り扱いを解説します。社会保険の適用が拡大され、平成29年(2017年)4月からは、従業員500人以下の会社でも労使が合意すれば加入対象になりました。
まずは、社会保険加入の要件をみていきましょう。
- 週あたりの決まった労働時間が20時間以上
- 月あたりの決まった賃金が88,000円以上
- 雇用期間が1年以上見込めること
- 学生でないこと(夜間・通信・定時制の学生をのぞく)
派遣社員を続けながら、フリーランスの仕事を委託契約で引き受け、給与所得で報酬が支払われている人は次の点をチェックしてみましょう。
- 「主たる給与」を受け取っている先でのみ、社会保険加入の要件を満たしている
→メインの勤務先でのみ社会保険に加入する。
- 2つの勤務先で社会保険加入の要件を満たしている
→厚生年金の被保険者は、いずれか一方の事業所を選択し、その事業所を管轄する年金事務所に届出をする。健康保険は健康保険組合や協会けんぽなどの保険者が複数の場合、いずれかの保険者を選択し、当該保険者に届け出てもらう。
- 両方の勤務先で社会保険加入の要件を満たしていない
→国民年金・国民健康保険に加入します。
社会保険は、会社も保険料を負担します。そのため自分で国民年金保険料・国民健康保険料を支払うより保険料が安くなることがあるのがポイントです。社会保険加入の要件を満たしているかチェックしてみましょう。
ダブルワーカーの労働保険(労災保険・雇用保険)の取り扱い
事業主が労働者をひとりでも雇用していれば、加入しなくてはならないのが労働保険です。この労働保険には、労災保険と雇用保険があります。
万が一、事故が発生して労災保険制度の適用を受ける際は、メインの勤務先、副業・兼業の勤務先といった区別はありません。たとえば、就業先Aから就業先Bへの移動時に起こった災害は、通勤災害として労災保険給付の対象となります。残念ながら、雇用されていないフリーランスは補償の対象外です。
ここで、朗報があります。2020年6月25日の全世代型社会保障検討会議で、政府が「特別加入」対象拡大の方針を明示しました。これにより、フリーランスが労災保険に特別加入できる日も遠くありません。ただし、フリーランスは事業主に雇われる労働者と違って、保険料を自己負担する必要があることを知っておきましょう。
では次に、ダブルワーク時の雇用保険の取り扱いについてみていきましょう。通称「失業保険」と呼ばれる雇用保険は、2つの勤務先で同時加入はできないのがポイント。雇用保険の加入資格要件は次のとおりです。
- 週あたりの所定労働時間が20時間以上
- 31日以上継続して雇用される見込み
- 雇用保険の適用事業所に雇用されている
ダブルワークをする2つの事業所での合計労働時間が週に28時間でも、事業所Aで18時間、事業所Bで10時間では雇用保険の加入要件を満たせません。派遣と委託契約などで給与を受け取るフリーランスは、給与をより多く受け取っている勤務先で雇用保険に加入するようにしましょう。
ダブルワーカーは現行制度の改正に注目しよう
クリエイターとしてのスキルアップ、資格の活用や収入を増やすために増加傾向にあるダブルワーク。厚生労働省が「柔軟な働き方に関する検討会」を開催するなど、政府はダブルワークを推進する方向で検討を重ねています。
派遣社員とのダブルワークで、フリーランスとしての基盤を固めようとしている人は、現行制度の改正がどう進んでいるのか注目してみてください。社会保険加入の要件はすでに緩まり、今後は労働保険の改正も予定されています。現行制度の改正を知らずに、恩恵を受けられない不利な事態を避けるためにも情報をしっかり集めましょう。