サブスクリプションの覇者、Netflixはなぜ成功できたのか?その理由に迫る

1998年4月14日に産声をあげたNetflix(ネットフリックス)。もともとNetflixは、アメリカ初のオンライン注文によるDVDの郵送レンタルサービスとしてスタートしました。現在では大胆な業態転換を成功させ、ストリーミング配信、オリジナルコンテンツ制作をおこなうエンターテイメント事業として知られています。

さらにサブスクリプション型ビジネスモデルの覇者として、広く認知されているのは周知のとおりです。「絶対にうまくいかない」と酷評されながらもライバル企業との競争に勝ち続けているNetflix。今回はNetflixが成功できた理由について、歴史をふりかえりながらみていきましょう。


Netflixスタートアップ期にみるアナログ的な取り組み

Netflixの歴史は、マーク・ランドルフが経営者、リード・ヘイスティングスが資金を提供する投資家という役割を担ってはじまりました。時はインターネットの黎明期、Eコマースに将来性を見出したふたりのビジョンは、「書籍以外を取り扱うAmazonを作る」というものでした。

ニッチ市場開拓とウィンウィン戦略

そこで書籍のように多品種かつ携帯性の高い商品群として選ばれたのが映画のDVDだったのです。VHSビデオテープを店舗でレンタルするサービスが主流だった当時の感覚では、DVDレンタルは新しいものに目がない人に向けたニッチなビジネスモデルでした。

マークが最初に着手したのは、なんとDVDレンタルとDVDプレーヤー両方の市場開拓です。開業の約1年前、1997年の3月にアメリカで初めてDVDプレーヤーが試験販売された時代背景から、当時世の中に出回っていたDVDはたった800タイトルしかなかったのです。そこで目をつけたのが、DVDプレーヤーを製造する東芝、ソニーなどのメーカーとタイアップでした。

DVDプレーヤーの梱包の中に無料のDVDレンタルクーポン券を入れてもらう、アナログ的な広告戦略を敢行したのです。ソフトがないから消費者はプレーヤーを購入したがらないという、メーカーがもつジレンマも解消できる戦略でした。配送システムの構築も手探り状態で、担当者は郵便局で3カ月間働いて郵便システムを学んだというエピソードまであります。

レンタルビジネスへの特化とサブスクモデルの導入

Netflix創業当時の事業内容は、実はDVDレンタルと販売の2本立てでした。予想に反して当時の消費者の志向はDVD購入だったことから、レンタルの売り上げは全体の3%ほどというありさまでした。そんなときAmazonから買収の提案を受けることになりました。

しかし、提案額が低すぎたこともあって買収は不成立に終わったのです。そしてこの一件が契機となり、NetflixはAmazonが本格参入するのであればDVD販売に未来はないと見切りをつけ、瀕死にみえるレンタル事業に特化する決心をするのでした。

ここで起死回生の策として始めたのが、サブスクリプションモデルの導入です。最初は1カ月無料お試しキャンペーンのため赤字をタレ流したものの、レンタル事業は飛躍的に伸びる結果となりました。


Netflixに成功をもたらしたカスタマーファースト精神

Netflixは、DVDレンタルという業界を独自に開拓したパイオニアです。そのNetflixビジネスモデルが成功した理由は、ズバリ「参入する障壁の高いビジネスモデルを構築したこと」につきます。ビジネスを成功に導いた革命的で戦略的なサービスとは、「独自のアルゴリズム」「翌日配達を可能にする洗練された配送システム」「延滞料金なしのサブスクリプション型プランの導入」の3つでした。

莫大なコストをかけて顧客サービスレベルを上げる

当時、Netflixの公式サイトは、センスのある店員が顧客の好みに合わせて映画をおすすめしているイメージを目指していました。これは「シネマッチ」と呼ばれ、アルゴリズムをベースにした人工知能(AI)が、顧客におすすめの映画を提案するレコメンドエンジンによるものです。

実はこのアルゴリズム開発は、潤沢な資金を持たないNetflixの苦肉の策から生まれたものでした。年々蓄積される「旧作」の回転率を上げるために開発され、コスト高な新作に依存しない健全な財務体制のベースになっています。

実際にNetflixはアルゴリズムへの投資を強化し、2006年10月には前代未聞の壮大なアルゴリズム・コンテスト「Netflix Prize」を開催しました。既存の「シネマッチ」の精度を、2011年までに10%以上向上させたチームに賞金100万ドルを支払うというものです。Netflixの本気度が伝わってきます。

新規の口コミ客を増やす契機となったのが、洗練された翌日配達サービスでした。熱心なNetflixファンを生むことがわかると、郵便局の配達エリアに合わせて物流センターを増やし、翌日配達が可能な地域をさらに拡大していったのです。

既存の商習慣をガラリと変えるアイデアにチャレンジ

そして多くの顧客を獲得する呼び水となったのが、毎月定額料金で一度に4本までレンタルできる「サブスクリプション型プラン」でした。さらに、いつ返却しても延滞料金の支払いがないという心憎いサービスも見逃せません。返却したら次のDVDをレンタルできる=顧客はいつ返却してもいいという仕組みは、既存の店舗型レンタルビデオ店との差別化を可能にしました。

1カ月の定額料金を払えば、返却期限を気にせず好きなDVDを借りっぱなしにできて、しかもわざわざ店舗に足を運ぶ必要もない。この当時の商習慣からかけ離れたサブスクサービスは、壮大な実験と言えるほど奇妙なものでした。しかし、このサブスクサービスが起爆剤となりNetflixは大躍進しました。失敗を恐れず挑戦することの大切さを再認識させられるエピソードです。

「やめやすいサブスク」という革命

このサブスクサービス発展の鍵となるのが、Netflixが提供した「やめやすさ」です。多くの企業は顧客の離脱を恐れがちで、市場開拓を成し遂げる前に「やめやすい」サブスクサービスを提供する発想は生まれにくいのが実情です。

一方、Netflixは「簡単にキャンセルできる」システムを提供することで顧客拡大を加速させました。消費者の心理的ハードルを下げることで競合よりも早い段階で顧客を獲得すると、離脱する理由もデータとして得られるため、サービス強化への近道になるというわけです。


Netflixの企業文化とは?

2000年、Netflixはドットコムバブルが崩壊したあおりを受けます。倒産こそまぬがれたものの、計画していたNetflixの株主公開は延期となり、期待していた投資家の資金を受け取れなくなったのです。

ピンチに陥ったNetflixは、次の手としてNetflix最大のライバルであり、9,000店舗を構えるビデオレンタル界の巨人「ブロックバスター」への身売り、あるいは提携策で助けを求めました。しかしこの提案も一蹴されてしまいます。

こうなると、Netflixは顧客獲得の拡大路線を見直し、コスト削減に取り組む必要性を直視せざるを得なくなりました。レンタルプランを見直すだけでなく、2001年夏には社員3分の1を一時解雇するレイオフに踏みきったのです。

この既存組織をスリム化せざるを得ない逆境を逆手にとり、Netflixは少数精鋭で競争を勝ち抜く体制を整えました。Netflixは、独自の企業文化を明文化した文書(culture deck)を一般に公開しています。

Netflixの企業文化では、自由と責任もたいへん重視されており最新版のculture deckでは、次のようにまとめられています。

  1. encourage independent decision-making by employees(従業員の自主的な意思決定を促す)
  2. share information openly, broadly, and deliberately(情報をオープンに、広く、そして意図的に共有する)
  3. are extraordinarily candid with each other(徹底的にお互いに率直になる)
  4. keep only our highly effective people(有能な人材だけを確保する)
  5. avoid rules(規則をつくらない)

2009年に共同創業者兼CEOのリード・ヘイスティングスが公開したオリジナル版では、「Brilliant jerk(優秀だけどイヤな奴)」について言及しているのがポイントです。確かに誰の目にもズバ抜けた存在かもしれないけれど、イヤな奴は最終的にはチームワークを崩壊させるとして容認されないと明記しています。たとえ優秀だったとしても何をしても許されると、はき違えてはいけないということでしょう。

このように、企業文化を高めるために絶え間ない努力をしている点も、Netflixが成功し続ける理由といえます。


ライバルに負けそうで負けないNetflixに注目しよう

DVDとインターネットが成長し、危機感を強めたブロックバスターは、Netflixとそっくりな「ブロックバスター・オンライン」を04年8月に立ち上げました。両社の競争は熾烈(しれつ)を極めたものの、ブロックバスター側の親会社の内紛が起きたためNetflixは辛うじて戦いに勝つことができました。

この戦いを終えてから海外展開を始めたNetflixは、2013年にはオリジナル作品「ハウス・オブ・カード」を配信。それ以降はオリジナルコンテンツの世界配信に力を入れています。

今回は、ライバルに負けそうで負けないNetflixの成功理由についてご紹介しました。これまでの軌跡を理解して、Netflixのさらなる展開を興味深く見守りましょう。

ライター
Mistyrose
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