インクルーシブデザインについて知ろう!ユニバーサルデザインとの違いや具体例を紹介

日本のように成熟した市場において、モノづくりの差別化をはかるため注目されている手法がインクルーシブデザインです。これは想定ユーザから排除されることの多かった高齢者、身体障がい者や外国人をデザインプロセスに積極的に巻き込むというもの。そのため、ユニバーサルデザインとの違いがよくわからない人もいることでしょう。

今回はインクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違いと事例をご紹介します。


インクルーシブデザインとは

インクルーシブデザインとは極端ユーザと呼ばれる高齢者、障がい者、外国人などをデザインプロセスに積極的に巻き込む手法のことです。こういった極端ユーザのニーズに注目すると、平均的なユーザのニーズを調べるだけでは気づかない潜在的なニーズを発見できる強みがあります。ここでのポイントは、高齢者、障がい者、外国人向けのデザインではなく、「万人のニーズに対応する包括的なデザイン」ということ。

この手法は5つのステップから構成される「デザイン思考」に基づいているのが特徴です。デザイン思考とは「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」のことで、すべての段階に極端ユーザが深く関わります。例えば最初の「共感」におけるプロセスは、施設、プロダクト、サービス、WEBなどを利用する極端ユーザの徹底的な観察・インタビューです。そして、見過ごしがちな問題点や改善の余地を発見し、従来の思い込みを打破して具体的な解決策を論理的に固める「問題定義」「創造」へと進みます。

それをもとに段ボール、画用紙、テープ、粘土など、安価で何度でもやり直しできる材料を使って、短時間で「プロトタイプ」を制作します。そのプロトタイプが有効か検証する「テスト」で判明した問題点を解決するため、「共感」へ立ち戻りデザインをさらに高めるというものです。


ユニバーサルデザインとの違いとは?

ユニバーサルデザインとは、建築家・プロダクトデザイナー・教育者として活躍したロナルド・メイス氏が1980年代に提唱した手法のこと。性別・年齢・国籍・障がいの有無にかかわらず、できるだけ多くの人理解しやすく、使いやすいようにデザインすることです。気持ちの上でのバリアを生み出さないデザインのことで、日本では「誰にでもやさしい」という概念で理解されています。

インクルーシブデザインと似て聞こえますが、違いは何なのでしょうか?

ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインの大きな違いは、高齢者、障がい者や外国人などの極端ユーザのデザインプロセスへの関わり方です。ユニバーサルデザインでは、デザイナーが極端ユーザの困難を想定してデザインします。そのため、必ずしも極端ユーザのニーズを満たしていないデザインも散見されるのが実情です。

一方インクルーシブデザインは、デザインプロセスの上流から極端ユーザが参加します。インクルーシブデザインは極端ユーザのニーズをかなえることで、万人に受けいれられるユニークなデザインを生む手法といえるでしょう。


インクルーシブデザインの事例を紹介

ここからは、実際にインクルーシブデザインにより生まれたデザイン事例を紹介します。極端ユーザが積極的にデザインプロセスに関わったデザイン事例を厳選したので見ていきましょう。

041(オーフォアワン)とユナイテッドアローズのコラボ

アパレルブランドのユナイテッドアローズは、誰か1人の未解決の課題に取り組み、プロダクト・サービスを開発する041プロジェクトとコラボしました。障がい者ひとりひとりの悩みに応えるなかで、すべての人に心地いい服づくりに挑む新レーベルが「UNITED CREATIONS 041 with UNITED ARROWS LTD.」です。ひとりを起点に、新しいファッションを作る、というコンセプトがポイント。後ろが外せる2wayコート、フルオープンな3ZIPパンツ、フレアにもタイトにもなるZIPスカートなどを展開しています。

セブン銀行のATM

セブン銀行では、10年以上にわたって視覚障がいのある顧客も手軽にATMを利用できる音声ガイドサービスをおこなっています。インターホンから流れる音声ガイダンスに従って、タッチパネルを使わず引出し、預入れ、残高照会の取引が完結できるスグレモノ。インターホンでの取引を選択した時点で、テンキー・タッチパネル操作ができなくなるため、第三者によるイタズラの心配もありません。金額は画面に表示されないなど、プライバシーにも配慮されています。ATM操作に慣れていない人でもひとりで操作できるように、操作方法を詳しく解説するため利用しやすいのが特徴です。

都立砧公園遊具広場「みんなのひろば」

障がいがある子もない子も一緒に遊び、楽しむことを目的にした都立砧公園遊具広場「みんなのひろば」の整備が2020年3月に完了しました。そのシンボル的な存在が、船型遊具「みらい号」、車いすでも駆けまわれる複合遊具です。車いすの子も視覚障がいのある子も一緒に挑戦できる迷路、ペダルを押すと音の出る楽器遊具、体を支える力が弱い子どもも楽しめる遊具もあります。興奮を落ち着かせるため、静かな環境がほしい子どもにぴったりな切り株型のシェルターも。どんな特性を持った子どもも一緒に遊べる「みんなのひろば」は、日本の公園のありかたを変えるきっかけになるかもしれません。


インクルーシブな取り組みに注目しよう

企業が主体となってデザインするユニバーサルデザインは、極端ユーザのニーズから外れてしまうことがあります。一方、極端ユーザがデザインプロセスの上流から参加するインクルーシブデザインは、誰もが利用しやすいユニークなデザインを生む力を秘めているものです。インクルーシブデザインの手法を取り入れたデザインが広がりをみせているので、ぜひ意識的に探してみてください。

ライター
Mistyrose
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