事業をグロースさせるCXOとは?役割や実際の企業事例を紹介

2020年12月現在、CDO(Chief Design Officer)やCXO(Chief eXperience Officer)など、デザインのプロフェッショナルを経営の上流に置く企業が増えてきました。2018年に経済産業省・特許庁が発表した、ブランドとイノベーションを通して企業の競争力を高める「デザイン経営」を推進していく「デザイン経営」宣言の流れをくむものです。

この背景には製品の外観のデザインのみではなく、企業と顧客とのあらゆる接点をデザインし、大きな成長を遂げてきたアップルの存在があります。ここでは「デザイン経営」の鍵を握るCXOとはどのような仕事なのか、その定義・役割や実際にCXOを置く企業の事例をご紹介します。


CXOとはどのような仕事なのか?

CXOとはChief eXperience Officerの略で、日本語では最高ユーザー体験責任者と訳されています。これは2010年ごろから日本で浸透している「UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン」の概念と結びついたもの。UXデザインは、製品やサービスを企画の段階から理想のユーザー体験を目標としてデザインしていくことを差し、CXOとはその役割を担う役員のことを表します。

購入前のサービスや商品にまつわる情報収集から購入後のアフターフォローまで、顧客にとっては「体験」といえます。このユーザー体験を最大化するために、CEOが持っている経営課題に対して、企業内の部門を超えた横断的な提案するのが、CXOの仕事内容です。CXOとはユーザー体験を軸として、企業の最終アウトプット、つまりクオリティコントロールに責任を持つ役員といえるでしょう。そのためCXOには「テクノロジー」「ビジネス」「クリエイティブ」の3つの領域を理解することが求められます。

たとえばアップルの創設者、故スティーブ・ジョブズ氏は顧客との接点すべてに目を光らせた経営者でした。アップル製品の特徴は、徹底したミニマリズム。その世界を体現するアップルストアには、フィレンツェの歩道で使われている砂岩を用いたタイルの床、ジョブズ自ら特許を取得したシースルーの階段などを使用しています。さらにその直営ストアで製品を心ゆくまで体験できるのがポイント。高い質感をもつ製品との感動的な対面を演出する趣向をこらしたパッケージにいたるまで、顧客の予想を上回るサプライズを用意するのがアップル流のデザインです。

このように細部にまでユーザーをおもてなしする気配りを具現化することが、CXOには求められています。


ブランドリセールの株式会社RECLO(旧アクティブソナー社)

2019年に中国最大級の金融財閥グループCITIC Capital等から総額約36億円の資金調達を実施したRECLO。RECLOはオンライン専門、ハイブランドリセールプラットフォームを提供しています。ブランド品から時計、宝飾品、アパレルまで、玄関先で渡すだけで手軽に出品依頼できるのがポイント。RECLOの強みは、海外で確立した販売ネットワークです。実際に海外での売上高は、日本国内での売上高を超えています。

さらに2020年にはフランス拠点のリセールプラットフォーム「VestiaireCollective(ヴェスティエール コレクティブ)」と戦略的事業提携を実施しました。これは、RECLOが世界規模でのハイブランドリセールプラットフォームの構築を目指していることがわかる事例です。

このRECLOが2018年に取り組んだのが、CXOポジションの設置でした。CXOに就任したのは、Moonshot代表取締役、菅原健一氏です。SmartNewsのブランド広告責任者、Supership株式会社のCMO等を歴任した経歴を持ち、現在では企業の成長を支援するアドバイザリー業を営んでいます。

就任当初、菅原氏は「RECLOも、買わなくても楽しめる、関心をとどめておけるサービスに変えていきたい」と述べ、新しいメディアのような展開も考えていると抱負を語っていました。そんな中、2020年9月にRECLOは男性ライフスタイル誌とコラボし「マデュロ・サステナ・クローゼット」の連載をスタート。これは『MADURO』の総編集長大久保氏とRECLO代表取締役青木が対談し、サステナブルにブランド品を循環させるための情報を提供するというものです。

ブランド品でファッションを楽しむとき、RECLOの名前が自然にネットユーザーの脳裏に浮かぶ、そのような日が近いかもしれません。


山登りを楽しく・安全にサポートする株式会社ヤマップ

200万ダウンロード突破し、国内シェアNo.1の登山GPSアプリ「YAMAP / ヤマップ」。携帯の圏外でも、現在地が一目でわかるため遭難や迷子の防止に役立つアプリとして人気を集めています。さらに登山記録を「活動日記」としてかんたんに作成でき、その記録をユーザー同士でシェアすることで、山登りの楽しみ方が広がるというものです。

2019年、YAMAPはTHE GUILD 共同創業者 UX.UI Designer の安藤剛氏をCXOに迎えました。YAMAPには「活動日記」を軸とした登山者コミュニティが形成されており、wiki的に山の集合知が蓄積していくプラットフォームとしての役割も果たしています。CXOポジションを設置したことで、YAMAPユーザーから集められた情報をもとに、最新の登山道状況が確認できる地図のリリースを模索中です。

2020年11月には、登山ルートから外れた時に通知が届く「ルート外れ警告」がYAMAP プレミアムユーザー向けにリリースされました。これは登山道だけではなく、ダウンロード済み軌跡・モデルコース・登山計画もルート外れの対象になるというもの。まさに安全登山に役立てたい機能です。

YAMAPのアプリが刻々と変化する登山道の状況を可視化できるツールとして、登山を楽しむ人の間で重宝される日が来るかもしれません。


レシピ動画サービス「クラシル」を運営するdely株式会社

国内No.1のレシピ動画サービス「クラシル」と月間利用者数が4,000万を超える、国内No.1の女性向けメディア「TRILL」を運営するdely。delyは2020年12月よりイオンリテールとの連携をスタートさせました。この連携によってクラシルは、お気に入りのレシピを見つけたらネットスーパーで材料の買い物まですませられるアプリへと進化したのです。

「太陽のように人々と社会を明るく照らす」をビジョンに掲げるdelyは、2019年7月にCXO職を設置しました。招聘されたのは、デザイン会社Basecamp・CEOの坪田朋氏。坪田氏に白羽の矢が立ったのは「プロダクトデザインにおいて、日本一の人」だというのがその理由です。プロダクト領域を牽引することを期待されての抜擢でした。

しかもdelyは坪田氏がCEOを務めるBasecampを完全子会社化する構想を提案。坪田氏も「実現したいものと実直に向き合っている」からできる提案だと感銘を受けたため、Basecamp子会社化も合わせて実現しました。これによりBasecampに所属するハイスペックなクリエイターたちが、dely、クラシル、TRILLの案件に深くかかわることは明らかです。

この事例は、日本の事業会社によるデザインファームの買収実績として先がけ的なケースとなりました。テクノロジーとデザインの掛け合わせが、今後どのような化学反応をみせるのか注目しましょう。


noteを運営するnote株式会社(旧ピースオブケーク)

日本でCXOを設置した企業の先がけ的存在といえばnoteでしょう。多くのクリエイターや出版社と提携しているコンテンツ配信サイト「cakes(ケイクス)」や、だれもが自分の「メディア」を記事や動画形式でかんたんに発信できるプラットフォーム「note」の運営会社です。

2017年に、THE GUILDの代表取締役を務めつつ、GMOペパボのUI/UXの顧問などを歴任した深津貴之氏をCXOに招聘しました。「noteっていうサイトがあるらしいよ」と耳にするところから、「読む」「作家になる」「支援する」までのユーザー体験すべてを設計しています。

深津氏の案件への関わり方は、文字通り横断的です。デザイン、経営、エンジニアリング、マーケティング、カスタマーサポートまで行ったり来たりしながら、それらをつなげてユーザー体験を改善しています。

深津氏自身の言葉を引用すると、CXOとは次のような仕事です。

「サービスを認知し脳細胞が発火した瞬間」から、「サービスを忘れてしまうまで」。その間、サービスに関して脳内で発生するあらゆる記憶と感情、その全てをいい感じにすることです。

引用:CXOってどんな仕事なの?|深津 貴之 (fladdict)|note

2020年はステイホームの影響もあり利用者数は6300万を突破。「Yahoo! JAPAN」や「LINE」に迫るメガメディアにまで成長しました。この実績の背景には、最高責任者として権限を得たCXOの活躍があることは間違いないでしょう。


CXOはデザイン経営を象徴するポジション

政府が推進する「デザイン経営」と呼ぶための必要条件は、

①チームにデザイン責任者がいること
②事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること

その意味でも最高ユーザー体験責任者のCXOは、時代の要請で生まれた企業の成長に不可欠なポジションといえます。

noteの大躍進にもみられるように、ユーザーの脳がいい感じで認知するまでnoteを浸透させたCXOの功績は大きいといえるでしょう。

今回はCXOが前のめりになってユーザー体験を改善している企業例もご紹介しました。当記事をCXOという仕事を理解するために役立てていただければ幸いです。

ライター
Mistyrose
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