はじめに
最近では、生成AI(人工知能)による画像生成技術が急速に進化しています。
プロフェッショナルなスキルを必要とせずに高品質な画像を生成できるようになりました。
これにより、写真と生成AI画像の境界が曖昧になり、フェイク画像の拡散や炎上も多く発生し、社会問題にもなっています。
日本写真家協会は、2023年8月23日に生成AIで作成した画像は「二次的著作物」にあたり、原著作者の権利を保護するルール作りが必要だと問題提起する文書を公開しました。
この記事では、生成AI画像と著作権について深く探ります。
参照元
公益社団法人日本写真家協会
https://www.jps.gr.jp/about-generated-ai-images/
画像生成AIについてどんなツールがあるかなど詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください!
https://staffing.archetyp.jp/magazine/
写真と生成AI画像の違い
被写体の必要性
1番の大きな違いは被写体があるかないかです。写真を撮るためには、具体的な被写体が必要です。
一方で、生成AI画像は、被写体を必要とせず、指示だけで画像を生成することができます。
この点では、生成AI画像はイラストやコラージュに類似しています。
表現性と作家性
生成AIによる画像が人間の感情や意図を明確に反映していない場合が多いとされています。
この点は、生成AI画像の「作家性」に対する評価を非常に複雑な問題にしています。
伝統的な写真やアートでは、作家性はその作品がどれだけ独創的であり、人間の思想や感情、視点を如何に表現しているかによって評価されます。しかし、AIが生成した画像には、このような人間の内面を反映する要素が欠けている可能性があります。
この問題は、多くの場で顕在化しています。
例えば、フォトコンテストの応募規約では、通常、参加者が自分自身で撮影したオリジナルの写真を提出することが求められます。しかし、生成AI画像が登場したことで、規約はどのようにしていくべきか、全く新しい評価基準と対処法が必要とされています。
さらに、生成AIを使えば、誰でも短時間で高品質な画像を生成できるようになりました。
これは、プロフェッショナルな写真家やアーティストが長年かけて培ったスキルと比較すると、どう評価すべきなのかという問題があります。
技術が進化するにつれて、これまでの専門職の価値がどのように変わるのか、社会全体で考えるべき重要な課題となっています。
このように、生成AI画像の「作家性」については、多くの側面で再考と議論が必要です。
技術が進化するスピードが速いため、この問題に対する対応も迅速かつ柔軟でなければなりません。
今はまだ全ての答えが出ているわけではありませんが、多角的にこの問題を考えていく必要があると思います。
生成AIと著作権法
著作権の保護対象
日本の著作権法は著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義しています。
この定義に基づき、著作権は人間が創作したものだけに認められるとされています。
この法的枠組みは、人間の創造性と感情が直接関与する形での著作物生成には非常に適していますが、生成AIによる画像がこのカテゴリにどう当てはまるのかという問題は、非常に複雑になります。
生成AIによる画像は、一般的には大量のデータから学習し、その学習に基づいて新しい画像を生成します。
このプロセスにおいて、「思想」や「感情」は明確には存在しないか、あるいは非常に曖昧になっています。そのため、日本の著作権法の現行の定義に照らせば、生成AIによる画像が著作物として認められるかどうかは非常に疑問があります。
さらに考慮すべきは、生成AI自体が人間によってプログラムされたものであり、その動作や出力は人間の意図に基づいているとも言える点です。
この観点から見れば、生成AIによる画像も、ある種の「人間の創造性」を反映していると解釈できるかもしれません。しかし、その創造性は間接的であり、多くの場合、出力される具体的な画像に対する人間のコントロールは限られています。
このような背景から、生成AIによる画像と日本の著作権法との関係は、新たな議論と法的見直しを必要としています。
特に、AIの進化がこのように速い現代においては、法的枠組みもそれに追随する形で進化していく必要があります。
二次的著作物と原著作物
生成AIによる画像は、既存の著作物を元に新たな画像を作成する「翻案」(二次的著作物)にあたります。そのため、原著作物の著作者にも一定の権利があります。
しかし、生成AI画像を見ただけでは、その原著作物が何であるのかを判断することは難しく、著作者にとっては大きな問題です。
明示義務の設定
生成AI画像がもたらす著作権の問題には、多くの側面がありますが、その中でも特に注目されるのが、原著作物と二次的著作物に関する著作権の明示です。
一部の専門家や関係者は、生成AIによって作成された二次的著作物に対して、原著作物の著作者名や出典、さらには二次的著作物の作者(この場合、AIまたはAIを操作した人物)の名前を明示する義務を設けるべきだと主張しています。
このような明示義務の設定にはいくつかの理由があります。
まず、原著作物の著作者がその作品がどのように使われ、また変更されているのかを知る権利があります。現在の生成AI技術では、元の著作物がどれであるかを一見して判断することは難しいです。
明示義務があれば、この問題をある程度解決できます。
次に、二次的著作物の作者名を明示することで、その作品が人間による創造性を含むものなのか、それとも機械によって自動生成されたものなのか、視聴者や利用者が明確に知ることができます。
これは、作品の評価やその後の使用において非常に重要な情報となるでしょう。
さらに、このような明示がなされることで、著作権侵害や不正使用のリスクも低減されます。
例えば、商用目的で生成AI画像を使用する際に、その画像が誰のものであるか、どのような許可が必要であるかが明確になるため、法的トラブルを避けやすくなります。
しかし、この明示義務にも課題はあります。
例えば、一つの生成AI画像が多数の原著作物から派生している場合、すべての出典を明示することは現実的ではないかもしれません。
また、AI自体が「作者」であるとすると、その所有者や開発者に著作権が帰属するのか、それともAI自体に何らかの「著作権」が存在するのかといった、未解決の法的問題も多く存在します。
このように、生成AI画像の著作権に関する明示義務は、多くの利点をもたらす一方で、新たな課題と疑問も発生する可能性もあるので、さらなる議論が必要となります。
改正の方向性
著作権法の見直し
現在の著作権法には、一部のオンラインプラットフォームが著作物の記録や複製を合法的に行える特例があります。
生成AI技術が進化するにつれ、単に著作物を「記録・複製」するだけでなく、「生成・変更」することも容易になっています。
このような状況下で、既存の著作権法がどれだけ有効であるのか、疑問が投げかけられています。
例えば、あるプラットフォームが生成AIを用いて新しい画像や動画を生成した場合、その著作権はどのように扱われるべきなのか、また、そのような生成AI画像が、元となった著作物の著作権を侵害する可能性はないのかなど、新しい問題に対処するためには、現行の著作権法を見直し、生成AI画像に対する新しい法的枠組みを構築する必要があります。
プラットフォームの責任
生成AI画像に関連する著作権の問題に対する一つの解決策として、プラットフォームに原著作物を探し出し、それを明示的に表示するシステムを装備する義務を負わせるという考えがあります。
この方法は、多くの方面で有用性が考えられます。
まず、原著作物の著作者にとって、このようなシステムはその作品がどのように使用されているのかを追跡しやすくします。
これにより、著作者は自らの作品が適切に扱われているかどうかを確認でき、必要な場合にはその使用を制限または許可することが容易になります。
次に、消費者や一般の人々にとっても、このような明示は有用です。
原著作物とその著作者が明示されることで、生成AI画像の「出所」が明らかになり、その画像をどの程度信頼できるのかが評価しやすくなります。
また、教育的な側面からも、人々はAIと著作権についてより深く理解する機会を得るでしょう。
さらに、プラットフォーム運営者自体にもメリットがあります。
明示的なシステムを通じて、プラットフォームは著作権侵害のリスクを減らし、それによる法的なトラブルを防ぐことができます。このようなシステムが装備されれば、プラットフォームはより安全かつ信頼性の高い場として認識される可能性が高くなります。
しかし、このようなシステムには実装の難しさとコストが伴います。
特に、生成AI画像が多数の原著作物からインスピレーションを得ている場合、すべての原著作物を特定し表示するのは技術的にも非常に難しい課題でしょう。
また、プラットフォームが国際的に展開している場合、各国の著作権法に対応する必要があり、そのコンプライアンスは更に複雑になる可能性があります。
結論として、プラットフォームに原著作物を探し、表示するシステムを装備する義務を負わせるという考えは、多くの利点を持つ一方で、その実現には多くの課題とコストが存在します。
しかし、このようなシステムが導入されれば、生成AI画像と著作権に関する多くの問題が解決する可能性があり、今後の研究と議論の価値が非常に高くなる可能性があります。
まとめ
生成AI画像の急速な進展は、写真家だけでなく、全体のクリエイティブ産業に影響を与えています。著作権、表現の自由、倫理的な側面からも、この問題に対する適切なルール作りが急募されています。
技術は日々進化していますが、それに伴い、社会的、倫理的な問題も増えています。日本写真家協会も、生成AI画像の動向と取り扱いを注視しつつ、リアルタイムで対応していく必要があるとしています。
生成AIの未来はまだ未知数ですが、その影響を最小限に抑え、クリエイティブ産業を健全に維持するためには、適切なルールとガイドラインの設定が不可欠になります。
これらの変化と問題に対処するためには、すべての関係者が連携し、注意深く見ていく必要があります。