ビールのおいしさは感覚的な言葉で語られがちですが、その裏側には多様な香味成分の組み合わせがあります。キリンホールディングス株式会社は、こうした評価をデータと結びつけるため、嗜好AI「FJWLA」を開発しました。本記事では、この技術が何を明らかにし、商品開発にどう生かされるのかを整理し確認します。
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嗜好AI「FJWLA」が目指すもの──“おいしい”を分解して捉える仕組み
ビールの味や香りは、「苦味が心地よい」「後味がすっきりしている」といった表現で語られます。こうした評価は官能評価と呼ばれ、人が実際に飲んで感じた印象を数値やコメントとして集計する方法です。ただし官能評価は、あくまで結果としての「感じ方」を示すものであり、その背景にある要因を成分レベルまで分解することは簡単ではありませんでした。
FJWLA（Flavor Judgment for Whole Liking Analysis）は、この課題に対応するために開発された嗜好AIです。お客様調査から得られた官能評価データと、ビールに含まれる香味成分の分析データを組み合わせ、両者の関係性をAIで解析します。成分分析データとは、香りや味に関係する化学成分を測定し、数値として把握した情報を指します。
FJWLAの特徴は、「どの成分が、官能評価にどの程度影響しているのか」を定量的に示せる点にあります。AIが味の良し悪しを判断するのではなく、人が感じたおいしさを成分の観点から整理する仕組みです。これにより、感覚的に語られてきた評価を、開発に活用しやすい形で捉え直すことが可能になります。このようにFJWLAは、「おいしい」という結果を分解し、説明できる状態をつくることを目的としています。
そして次に問われるのは、この分析結果が実際の現場でどのように生かされていくのかという点です。
データと人の知見をどうつなぐのか──FJWLAがもたらす開発プロセスの変化
従来のビール開発では、醸造家が培ってきた経験や知見をもとに試作を行い、官能評価の結果を踏まえて改良を重ねているようです。この方法は確実である一方、改善点の探索や検証に時間がかかるという側面もあります。
FJWLAは、官能評価の結果を予測し、各香味成分の寄与度を数値として示します。これにより、醸造家は理想とする香味を実現するために、どの成分に着目すべきかを早い段階で把握できます。試作設計や工程条件の検討において、検証の方向性を定めやすくなる点が、この仕組みの特徴です。ただし、FJWLAは醸造家の判断を置き換えるものではありません。数値で示された結果をどう解釈し、どのような味づくりを目指すのかは人が決めます。データはあくまで判断を支える材料であり、人の知見と組み合わせてこそ意味を持ちます。
またキリングループの方針によると、FJWLAの適用領域をビール類にとどめず、RTDやワイン、清涼飲料などへ段階的に拡張していく方針が示されています。さらに、嗜好AIを含む解析技術とデータ基盤を「嗜好プラットフォーム」として位置づけ、将来的には購買やリピートといった市場データとの連携も視野に入れているとされています。これらは現時点では構想段階ですが、開発から改善までを一貫して支える仕組みを目指している点が読み取れます。
まとめ
いかがだったでしょうか？
嗜好AI「FJWLA」は、人が感じるおいしさを成分データと結びつけて整理する技術です。感覚に依存していた評価を説明できる形にすることで、商品開発における検討の質を高めています。データと人の知見を併せて活用する考え方は、飲料分野に限らず、これからのものづくりを考えるうえで示唆を与えてくれるはずです。
参考資料：ビールの香味成分を特定する嗜好AI「FJWLA」を独自に開発
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